184話 ギルドガード無双
俺は、自分の体が倒れたと悟った瞬間、即座にとある意識体に話しかけた。
(おっさん!ちょっくら殺気を放ってちょんまげ!)
前に会った時、黒服ボス野郎はおっさんの殺気にビビっていた。
体が動かない今、取れる手段はおっさんの殺気ぐらいしか無い。
しかし、おっさんからの返事は呆れたような声だった。
(命の危機にここまでハイテンションになれる奴を私は初めて見たぞ……。)
(無いからだよ!さっさと殺気放ってビビらせてくれ!)
切羽詰まった状況で余裕を作るために、ハイになる。
俺の精神状況は、ぶっちゃけそんな感じなのだろう。
(お前に指図されるほど落ちぶれたつもりはないんだが………。
まあいい、手伝ってやろう。)
そこまでが、タイムリミットだった。
会話でできるだけ時間を引き伸ばしたが、もう限界か。
遂に、黒服ボスの長剣が俺の心臓へと振り下ろされる。
大して力の篭っていないその一撃は、それでも俺の心臓を貫くほどの威力を持っていた。
しかし。
――――――――カツゥゥゥゥゥゥゥン。
「ギルド、カードだと!?」
「てめぇ、の、負け、だ!」
この世界における、収納袋並みのスーパーアイテムギルドカードが俺に九死に一生の機会を与えてくれた。
ぶっちゃけ、ギルドカードの謎の硬さを予め知っていた俺は、非常用にギルドカードを心臓の位置の上に保管していたのだ。
長剣が弾かれ、目を驚愕に染めた彼を次に襲ったのは、濃密な殺気。
直接向けられていないにもかかわらず、悍ましく鳥肌をガンガン立たせるような殺気を前に、彼は後退ることしかできなくなった。
流石殺気だ。相手をガンガン引かせてくれる。
明確なチャンスを掴んだ俺は、即座に回復魔法を使った。
(『アンチポイズン』、『アンチパラライズ』、『ヘイレン』!)
アダマンチウムを刺された所以外を回復した俺は、その場で立ち上がった。
「さあて、やっと俺のターンか。
――――――――覚悟はできてるだろうな?」
とりあえず格好良い言葉を吐いて、俺は空中に巨大な合成魔手を作る。
今も後退る黒服ボスに対し、俺は何の躊躇もなくそれを振り下ろした。
だが、生命の危機を前にして全力の回避行動を取る彼に、俺は一撃を叩き込むことが出来ない。
ああっ、面倒くせぇ!
これで魔手装甲でも使えれば連撃を叩き込めるんだけどなぁ、と思いながら自分に刺さったアダマンチウムの針を見る。
とりあえず、糸は切っておこう。面倒だし。
巨大魔手から一本分の魔手を切り離し、短剣のような形にすることで糸を切った。
よし、これでとりあえずあっちの手元にアダマンチウムが戻ることはない。
俺がそう安堵した瞬間、殺気を当てられてから一度も話していなかった黒服ボスが、口を開いた。
「退散!」
「「「!!!」」」
途端、それまで|大量にいた黒服達が水へとなった《・・・・》。
さらに、水にならなかった者全員が逃走を始める。
勿論、黒服ボス野郎や『唸る水流』も、だ。
(けど、そう簡単に逃すか!『マジックサーチャー』!)
せめて『唸る水流』だけでも捕まえようとした俺は、『マジックサーチャー』からの情報に驚いた。
反応が、無い。
いや、正確には『氷帝』と『氷華』の魔力やアリエルの火と雷の魔力、序にさっき生み出された水からは微力ながらも魔力の反応がある。
が、肝心の『唸る水流』の反応がない。
いや、そんな筈がない。さっきまでの『唸る水流』からは魔力の反応があった。
思い当たる節は一つしかない。
(『アンチ・マジックサーチャー』か!!!)
そういえば、アイツは初対面の時確かにやばげなオーラを出してた。
闇属性に対応する『極端な悪感情』があってもおかしくはない。
カチリ、と何かが嵌った。
恐らく、今回の襲撃者の内、黒服たちの大半は『唸る水流』によって水から生み出されたものだったのだ。
その序に『アンチ・マジックサーチャー』が掛かったのだとすると、奴等が残していった水には魔力反応があるにも関わらず、戦っていた時は魔力反応がなかったことにも辻褄が合う。
あいつら一体一体が妙に弱かったのもそれが原因だろう。
俺がそう考察していると、傷だらけのアリエルがこっちに向かって走ってきた。
転生者であるアリエルに、魔力を人形の制御へ費やした状態でここまで重症を負わせるとは。
『唸る水流』、完全に戦闘力がチート級だ。
俺は、彼女の強さに舌を巻いていると、皆が俺に近づきにくそうにしているのが見えた。
あ、そう言えば殺気出しっぱなしだった。
(おっさん、殺気はもういいぜ。)
(そうか。いいストレス発散になった。)
ストレス発散で窮地に追い込まれた黒服ボスさんマジ乙です、と俺が内心合掌していると、『氷帝』が意を決したように話しかけてきた。
「アリエル殿にも幾つか聞きたいことがありますが………。
ロイド殿、とりあえず、先に聞きますぞ。
今の、上級悪魔すら超える殺気はなんですかな?」
そう聞く『氷帝』の顔は、いやに真面目で、真剣だった。
やべ、なんて説明しよう。




