175話 (ファミチキください)
胸、いや、上半身を大きく貫かれた『地帝』が、その場で光の粒子となる。
それが消えゆくのをしっかりと見届けた実況が大きく息を吸い込み、
「勝者アアアアアア!!!シュウ選手ッッッッッッ!!!!」
「「「ワアアアアアアア!!!!!!!!!」」」
とんでもない大歓声だ。
最初にシュウを応援してくれたアンチ『地帝』勢なんかもう凄い。
吠えながらあちこちを走り回っている。
何か紙を持ちながら地団駄を踏んでる奴もいる。大方、賭けでもして損したんだろう。
そんな光景を見て、やっと俺は実感した。
ああ、勝ったんだ、と。
「いよっしゃアアアアア!!!!ロイド、シュウんところに行くぞ!」
俺が勝利を噛み締めていると、ギルが凄い勢いで叫びながら実況室を飛び出していった。
慌てながらギルの後を追って実況室を飛び出そうとした瞬間、俺は実況さんに肩を掴まれた。
「さあさあ!ここで、シュウ選手曰く今回のMVP、ロイド君に感想を聞いてみよう!
ズバリ!今の気持ちを一言で!」
(へっ!?)
いやいや、ちょっと待て、何この展開。
そう思ってシュウを見ると、何やら申し訳無さそうに手を合わせてる。
何かよくわからんが、とりあえず本心を言っておこう。
「メッチャスカッとした。
シュウ、ナイス!」
「アリガトゥ!!!!
それではラヴィーネさん、今日の闘いの解説をお願いします。」
「そうですな――――――――」
ラヴィーネさんが語り始めたのを見て、俺も控室へ向かうことにした。
「シュウ、おめでとーう!!!!」
シュウが控室に戻ってくると同時に飛び蹴りをしてやった。
まあ、防がれたが。流石におふざけが過ぎたな、うん。
「ハハハ……………。結構危なかったけどね………。」
「ぶっちゃけ、あそこで『クロスボウ』が発動しなかったら負けてたもんな…………。」
「そう考えると結構ギリギリだったんだね。」
「そうだな………って、あれ?ギルはどこ行った?」
「そういえば。」
俺のシュウが首を傾げていると、「助けてくれー!」というギルの断末魔が聞こえた。
「!?な、何があった!?」
俺らが慌てて断末魔の聞こえる方向に向かうと、そこにはギルを抱きしめるチビおっさんが。
「「…………………。」」
俺とシュウが絶句する。
チビおっさん、アンタそういう趣味だったのか。
つーか、汗臭いおっさんのハグとか誰得だよ。吐くぞ、俺。
とりあえず、ギルが可哀想なので魔手で回収してやった。
「やったぜーーー!!!やったぞーーーー!!!
俺の盾が『地帝』を上回った――!!!!」
「「「………………………。」」」
その喜びはわかるが、行為がいただけないな。
3人で一斉に冷たい目で見てあげた。
本人は全く気にしてなかったが。
チビおっさんから逃げるように闘技場内を彷徨っていた俺達は、次に貴族たちに捕獲された。
要件は、勿論「お抱え冒険者にならないか?」、である。
何処の貴族も考えることは同じなんだな。ウゼエ。
とは言ったものの、「テメェら全員ウザってぇんだよ、帰れ!」何て貴族にいうわけにもイカンので、表向きは丁寧に拒否っておいた。
それでも、貴族の列は止まらない。
よっぽど『地帝』を倒した、という事実がデカイんだろうな。
こちらはただ単に相性いい武器作って後は運任せで突っ込んだだけなのに。
と、俺が内心ブツブツ言いながら拒否っていると、急にテレパシーみたいな何かが飛んできた。
(ロイドさん、貴方は、転生者ですか?)
――――――――へっ!?
こいつ、直接脳内にッ!!!!
ビビって顔を上げると、そこにいたのは笑顔を浮かべながら他の貴族と同じことを言っているどっかの令嬢。
しかし、この顔を見て俺は確信した。
(こいつが犯人かっ!!!!)
(正解です。その反応を見るに、転生者ということでよろしいですか?)
どうやら、こっちの考えてることもあちらには伝わるようだ。
俺は、表向きは彼女との会話を続けながら、テレパシーを送る。
テレパシーつっても、ただ文面を考えてるだけだが。
(その前に聞かせろ、お前は転生者か?そして、魔王に会ったか?)
(そうです。私は魔王に転生させられました。
そこまでわかる、ってことは貴方もやはり転生者のようですね?)
(ああ。で、どうした。俺に要件でもあるのか?)
(ええ。ちょっとお話がしたいのですが。午後9時に、中央公園に来れますか?)
(いいぜ。あと、名前を教えてくれ。)
(アリエル・ナルスジャックです。以後、よろしくお願いします。)
(おう。こちらこそ。)
どういう訳か、彼女と話していても俺の体が拒絶反応を起こさない。
多分アレだな、転生者への興味が俺の拒絶反応を上回ったんだろう。
一応、表向きはそこで会話を終了し、俺はまた貴族の処理に戻ることになった。
因みに、俺とアリエルの会話時間が最長だったせいで、俺がお嬢様好き、という噂が流れていたらしい。
こんな外見6歳がお嬢様がうんたらとか言う訳ねえのに。
何か2重の意味で死にたくなってきた。
貴族の列を突破した俺達は、そこで重大なことを思い出した。
「そういえば、『地帝』に勝ったらなにか一つお願いが出来るんじゃなかったっけ。」
「「あ。」」
何というか、俺らには悩み事が多すぎると思う。
何も考えずただ飯ゲットのために奔走してた昔が懐かしいぜ。
ここからキャッキャウフフみたいな感じには絶対ならないのでご安心ください




