174話 質量を持った残像
吹き上がる水蒸気の中から、又もやあの声が聞こえた。
「詠唱破棄、『クリエイト・――――――――」
「させないッ！」
瞬時に反応したシュウは、戦輪モードと化した『封土の盾』を水蒸気の中に投げつける。
「『ゴ、クッ、『アイアンウォール』！」
何とか『クリエイト・ゴーレム』は妨害できたようだ。
と同時に、厄介だった水蒸気も晴れた。
「肉壁にしては中々粘るではないか。
『クリエイト・ゴーレム』のコンボから抜け出すとは思わなかったぞ。」
「そんな無駄口を叩いていていいのかな？
『地霊ノームの加護』で魔力は常に減っているはずだけど？」
いやいや、シュウ、お前も『最大軽量』でスタミナが削れてるだろ。
「おおおっとォ、ここでシュウ選手、揺さぶりをかけていくゥ！
これは『地帝』に焦燥感を持たせてミスを誘う作戦かぁ！？」
…………。
そ、そうなのか。そうなんだな。実況さんが言うんだから仕方がない、うん。
俺が強引に自分を納得させていると、『地帝』がシュウに応えながら魔法を使った。
「流石に、予習くらいはしているか。
ならば、お望み通り早めに決着を付けてやる。
『アンダースタブ』！」
途端、シュウの足元から岩が突き出る。
真下ががら空きだ、てか。
でも。
「そのくらいなら！『ブースト』！」
シュウは、頑丈さを活かして無傷で凌ぎきる。
そのまま、『地帝』に向かって疾走を開始する。
『地帝』もホントにミスりやがったよ。
『封土の盾』に気を取られすぎてシュウ自身の防御力を忘れてたのか？
「クッ、『メテオ』！」
『地帝』が苦し紛れに小さな隕石の魔法を放つが、
「『ライト・フォートレス』！」
こちらも無傷で凌ぎ切り、『地帝』へ更に接近。
『地帝』がバックステップで距離を取るが、ここで第6のギミックが発動する。
「チャンス、発射！」
ぽちっ、という音とともにぶっとい矢が『封土の盾』から発射される。
どういう訳か、『マジックガード』が展開されてなかったお陰で矢は見事に左胸に直撃する。
これが、第6のギミック『クロスボウ』。
矢は3本分しかないが、戦輪モードよりパワー、スピードが高い遠距離用攻撃として装填していた。
その威力は、見ての通り。
見事に『地帝』の左胸を貫通し、風穴を開け………………………。
…………………あれ？
（岩の分身体！？）
殺したと思っていた『地帝』は、ただの岩の人形だった。
そういえば、良く良く考えてみたらここまで『地帝』の使ってきた魔法は全て上下に作用するモノだった。
シュウもそれに気づいたのか、直に周りを見渡す。
が、どこにもいない。
「シュウ、下だ！」
咄嗟にギルが叫ぶ。
それに反応し、ボタンを押したシュウの足元から、又もや小型の『クリスタ・ルーン』を携えた『地帝』が出てきた。
直後、2個めの黒色火薬が爆発した。
――――――――ボン！
しかし、完璧には避けられなかったようだ。
ジュウ、という音とともにシュウの右足の甲が溶ける。
その怪我に追い打ちをかけるようにして、『地帝』があの魔法を使う。
「詠唱破棄、『クリエイト・ゴーレム』！」
「しまっ………………！」
「おおおぉっとぉ！ここで再び『クリエイト・ゴーレム』ぅ！
右足の負傷に加えてのこの魔法！これはキツイぞ！！！」
右足を引きずるシュウに、ゴーレムが一体襲いかかる。
シュウはアダマンチウムに当ててゴーレムを分解しようとするが、
「『アース・ホール』。」
落とし穴によりバランスを崩し、ゴーレムにしっかりとホールドされてしまう。
勿論、アダマンチウムは当てられそうにない。
「グゥッ！」
ゴーレムの圧力に、シュウが遂に『封土の盾』を落としてしまう。
「終わりだ。『クリスタ・ルーン』。」
ゴーレムの後ろから、『地帝』が『クリスタ・ルーン』を準備する。
（ここまでか………………！）
俺がそう観念した瞬間、『封土の盾』が奇跡を起こした。
落ちた衝撃で、第6のギミック『クロスボウ』が発動したのだ。
「！？」
慌てて『地帝』が回避する。
『クリスタ・ルーン』の方は乱れなかったが、ゴーレムの拘束が一瞬緩んだ。
「『跳躍』！」
その隙を見逃さず、シュウがゴーレムを左足で蹴り、脱出。
そのまま『封土の盾』にダイブしながらキャッチした。
「チッ！」
『地帝』が『クリスタ・ルーン』を携えながら突進する。
「『ヘイスト』！」
それに対応するために、素早さを上げる技をシュウも使用する。
「厄介な！」
『地帝』はそう叫びながら飛び上がり、真上から『クリスタ・ルーン』を叩きつけた。
――――――――ギュルアアアアアアアアア！！！！
『クリスタ・ルーン』とアダマンチウムがおぞましい音を立てて激突する。
徐々に『クリスタ・ルーン』が消耗していくが、それを放置して『地帝』は着地し、その拳を固く握る。
「詠唱破棄、『タロスの豪腕』！」
「『アンブレイク・ソウル』！！」
鉄を纏った『地帝』の拳と、シュウの使える最大の防御技がぶつかり合う。
――――――――ギギギギギギギ！！！！
軋むような音を立てて、『地帝』の拳とシュウの腹が拮抗する。
しかし、それはいつまでも続かない。
――――――――ギュル、キュル、スッ。
『クリスタ・ルーン』が消えたからだ。
それを感じ取ったシュウは、『封土の盾』を直ぐ様自分の手元に引き戻す。
「チッ！」
『地帝』が舌打ちしながらバックステップをする。
それを見たシュウがしっかりと『封土の盾』を『地帝』に向けた。
「「遂に出るか！」」
「何だと…………？『送還』！」
俺とギルが叫ぶのを聞いてやったのかどうかわからないが、『地帝』がゴーレムを自分の目の前に戻す。
「チャンス！」
しかし、それは『封土の盾』の前には障害になりえない。
シュウがボタンを押すと同時に、ゴーレムの腹が溶け始めた。
第7のギミック、硝酸。
それが、『封土の盾』からゴーレムに向かって発射されたからだ。
「な………………！！！」
「これで…………おしまいだッ！」
『封土の盾』から第8のギミック、『サンクンアンカー』が飛び出し、『封土の盾』を地面に縫い付ける。
「発射用意！」
「『アイアンシールド』！！！」
『地帝』が保険に『アイアンシールド』を創る。
けど、その程度じゃ第4ギミックは止められない。
「喰らえ………」
「「「『パイルバンカー』ァッ！！！！！」」」
『封土の盾』からおぞましい勢いで飛び出た巨大な杭は、『アイアンシールド』を何の抵抗もなくブチ割り、『マジックガード』を強引に全て割っていく。
これで魔力が余っていれば何か打つ手があったのかもしれないが、先程の攻防でだいぶ疲労を残している『地帝』に、これを防ぐ術は、ない。
――――――――ズブリ
嫌な、しかし間違いなく肉を穿つ時に出る音が、会場に響いた。
