167話 何時から1枚だと錯覚していた?
俺がシュウを再び視界に収めた時。
それは、シュウが『地帝』と会話している瞬間だった。
まずい、遅かったか。
「やはり来たな。で、決闘は受けるのか?」
これを聞いて、俺はニヤリとした。
『地帝』め、完全にシュウが手紙を読んだと勘違いしてんな。
時すでにあべしではあったが、大丈夫だったようだ。
が、俺の予想に反した返答をシュウがした。
「勿論。決闘を受けるよ。」
「はぁ!?落ち着け、シュウ!」
つーか、何でアイツ決闘のこと知ってんだよ!?
くそ、まさか『慈愛の心』以外の場所にも手紙を送っていたりしたのか!?
「チッ、あの光属性か。タイミングが悪いな。『シーシュポスの岩』。」
「!?」
チクショウ!?前に進めねえ!?
魔手も伸びていかねえし!
「ろ、ロイド?」
「そいつのことは気にするな。お前の相手は私の筈だ。」
「――――――――!!!!」
チクショウ、声すらも前に届かねえ!!
どうやって突破すんだよこんなの!!
「さて、外野がいなくなったところで決闘の確認をするか。
場所はこの街の中心にある闘技場。時刻は朝9時。
遅れたらどうなるか…………わかっているな?」
「遅れるわけないよ。」
ああ!!!
邪魔過ぎるこの魔法!
シュウのやつ、完全に怒りで頭に血が上っていやがる!
どう考えたってお前『地帝』に勝てないだろ!
あの『クリスタ・ルーン』とかいう奴を喰らったらお前一発でK.Oだぞ!
「なら、これに名前を書け。」
「書くものは…………ああ、血で書くんだね。」
は!?何それ怖い。
つか、シュウお前自分の体が硬すぎてピンじゃあ血ぃ出せてないぞ。
なんつー体してんだ。昔からだったけど。
『地帝』も若干ビビっているぞ。
っておい!?短剣出すなや!?まさか自分の腕をぶっすりするとかないよな!?
――――――――ブスッ。
刺したよ!?コイツ全力で刺したよ!?
そんな刺さってねえけど………。治すの俺なんだぜ?
って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
どうにかしてこの『シーシュポスの岩』を突破しねえと。
あれ?ちょっと待てよ、これ多分俺自身に掛かってる魔法だよな?
つーことは――――――――
(魔力を中和するアダマンチウムの針で何とかなるんじゃね?)
思いついたら即実行。
『収納袋』からアダマンチウムの針を取り出し、体に軽く刺す。
お、アダマンチウムの針を刺した左半身だけ前に進める。
「よし、これで登録は完璧だ。この紙は私が提出しておこう。」
「ちょっと待てい!」
右半身にも軽く針を出した俺は、いつも変わらない歩調で『地帝』に接近する。
(魔手装甲!)
針を瞬時に抜いて魔手装甲を身に纏い、さっきシュウがサインした紙に向かって貫手を放つ。
良かった、もう『シーシュポスの岩』は発現してないみたいだ。
そしてたぶん、あの紙は闘技場への申請書みたいな奴だ。
アレさえ破っちまえばシュウを説得する時間が稼げる!
「クックック、私が何の対策もしないでここに居ると思っているのか?
だとしたら甘いぞ、光属性。」
――――――――ガキン!!!
「チッ!『マジッククラッシュ』!『フレイム・ブースト』!」
残り少ない火属性を投入し、『マジックガード』を攻略にかかる。
『カラドボルグ』は切り札だし、紙一枚を破るだけに使う訳にはいかない。
――――――――パリン!
よっしゃ、突破できた!
そのまま紙をぶちぬいてやる。序に顔面一発殴ってやる。何かムカついたし。
そんな余裕を持って打ち出された俺の拳は、ガキンとという音とともにあっけなく止められた。
「『マジックガード』一枚に随分とご執心なことだ。
だが、残念ながら『マジックガード』は一枚だけではないのだよ。」
「『カラドボルグ』!」
「ッ!『ガイア・エスケープ』!」
やべっ、焦って使っちまった!
肩が痛え!脱臼した!
使いきった魔力が回復するとともに『ヘイレン』を使ったが、その間に『地帝』は逃げていた。
クソ、こうなりゃ決闘は免れねえな………。
とりあえず、シュウを回復しよう。
そう考えてシュウの方を振り向いた俺は、突然シュウに問われた。
「ロイド、何でさっき紙を切り裂こうとしてたの?」
「そりゃ、アレが決闘の申込書とかだろうからに決まってるだろ。」
「え、決闘をしちゃいけないの?」
「…………お前、勝てるってのか?あの化け物に?」
「え、『カウンタークレイヴ』で全部跳ね返せば……………。」
おいおい、それって格ゲーでカウンターばっかする素人と同じ理論だぞ。
「おいおい、遠距離から攻撃されてもお前は跳ね返せるのか?」
「いや、『弾壁』と『跳躍』を使えば接近できるでしょ?至近距離ならいくらでも跳ね返せるよ。」
「『マジックガード』と『シーシュポスの岩』はどうするんだ?」
「あ……。」
「チクショウ、ただ考えが足りなかったってだけか………。」
「ご、ゴメン!」
「大丈夫だ。だったら、なんとかしてお前を『地帝』と戦えるまで強化するよ。幸い、金も沢山あるし。」
「お金が沢山って………。まさか、装備を強化するの?」
「正解。よし、じゃあギルのいるあの建物に行くぞ。」
俺らは、全速力で市街からスラムへと駆けて行った。
その夜。
建物に突撃した俺は、ビックリしているギルに、半ば『地帝』への恨みも込めて告げた。
「『『地帝』め。よろしい、ならば戦争だ。
ギル、明日丸一日を使ってシュウを強化するぞ。
とりあえず、『慈愛の心』に戻って一休みだ。」
「しゅ、シュウを強化ぁ?」
『氷帝』さんにも何かアドバイスを貰いたいしな。
さっさと『慈愛の心』に向かおう。
俺は、そんなことを考えながらギルを担いで走りだした。




