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164話 気をつける(壊さないとは言っていない)

スラムの中を大分歩いた先に、それ(・・)はあった。


「で、デケエ…………。これか?お前の言ってた元孤児の集まってる場所って?」


「おう。ヤベェだろ?」


「成る程、確かにこれならお前ものうのうとニート出来るな。」


「だからその言葉やめてくんねえ!?なんかムカつくから!!」


「うっせえよ。シュウが起きるだろ?」


「テメエが言うな!!」


「ロイドと兄ちゃん、仲良いんだな………。」


「俺が一方的にやられてるだけな気がするが…………。」


そう言いながら、クルトは建物の窓口に話しかけ始めた。


「あ、ちょっと金と部屋貸してくんね?

え?誰かって?俺だよ、俺。」


どこの詐欺だよ、とツッコミが入るほど適当な話し合いによって、建物の門は開かれた。

おい、こんなのでいいのかよ。泥棒入りたい放題だぞ。


そんなことを考えながら俺が魔手でドアを開けると、そこには広大な空間が広がっていた。

まるでホテルのロビーだぜ、これ。

スラムの中にこれがあるとか色々ミスマッチすぎだろ、うん。


と思ってたらドカドカと30過ぎたくらいのおっさんが走ってきた。

久々に発動したな、俺のスキル(サモン・おっさん)。仕事すんなや。


「おうおうおう!もしかして、もしかするとお前があのロイドって奴かい?」


「は、はあ。そうですけど?」


いきなり何なんだこのおっさん。

つうか、くっそゴツイんだけど。絶対冒険者だろこの人。


「ハッハッハ!!やっぱお前か!

いやー、俺も元孤児なんだけどよぉ、後から来る奴が皆お前の話をしてくるから気になってたんだ!!いやー、会えて良かった!」


(どんだけ俺ら孤児の歴史は長いんだよ…………。もう30年以上続いてんじゃねえのか?)


道理で皆色々と手馴れているわけだ。30年もありゃあ色々な生き延び方が確立していてもおかしくはない。


「そんなことよりもさ、ベッド貸してくれよ。

シュウがずっとうなされてんだ。」


俺とおっさんの一向に話しの進まないやり取りを聞いてしびれを聞いてしびれを切らしたのか、ギルが会話に入ってきた。


「シュウ?っておい、まさかあの(・・)シュウじゃねえよな?」


「あのとかそのとか言われても俺の知ってるシュウはコイツしか居ねえよ。」


そう言いながらギルはクルトに背負われているシュウを指さした。


「やっぱ、『地帝』事件の時の子供か………。」


お、脈ありだなこの人。


「なんだ、その事件は?」


「あ?知らねえのか?

ここのスラムじゃあ結構有名な話だぜ。お前ら、ここに来るまでにそこのシュウ関連でなにか言われなかったのか?」


「ああ、言われた。何か詳しくは教えてもらえなかったけど。」


「そうか。ならそのシュウをベッドに寝かせたら教えてやるよ。

じゃ、ベッドはこっちだ。」


俺達は、おっさんの言う通りに進んでいった。
















「えっとだな。

まず、『地帝』の簡単な説明をするか。

『地帝』は、実は『加護の勇者』の末裔だ。

それも、偽物とかじゃなくて本物だ。

その証拠に、『地帝』含めたあの一族は全員『加護持ち』だ。

たった一人を除いては、な。」


因みに、『加護の勇者』は11代目勇者だ。

能力は名前の通り加護の力を使った物だったらしいが、その力の使い方が他の『加護持ち』よりも凄かったらしい。

しかも、一人で5つの加護を持つという化け物。

それでいて聖剣まで携えて尚且つ光属性持ち。

歴代勇者でも3位の実力を持っているとされている。


因みに、俺と戦ったクソ勇者は23代目勇者で異名が『初代勇者の再来』。

初代勇者しか使えなかった聖剣の第2形態を未熟ながらも使えるかららしい。

俺の中に住んでるおっさんと同程度の力しか引き出せてなかったようだが。


話が脱線した。


「つーことは、話の流れ的にそのたった一人ってのがシュウってことか?

いや、でもアイツ加護持ってるぞ?『同情』だけど。」


「何!?良かった、アイツも加護を手に入れたのか……。

あ、で、今の話の流れとシュウの称号からして『地帝』の家で何が起こったのかわかっただろ?」


「加護がない、ってことで虐待でもされたのか?」


「正解だ。

で、そのままスラムに捨てられた。

それを、俺達スラムに居た人間が育ててたっつうわけなんだが……。

この後、更に事件が起きたんだ。」


「ん?」


「シュウが『地帝』の刺客に誘拐されたんだよ。

ぶっちゃけ、死んだなんだろうなと思っていたんだが………。

良かった。加護も得て、しかもそれで生き延びてくれてたんだし。」


「なんというか、壮絶だな………。」


しかも、帝国に来てからも警備兵の副長に追い回され、勇者と闘い、城塞都市に来てから滅茶苦茶強い上級悪魔を闘って……………etc。

不運過ぎる。何処かの埃で足を滑らして死んだ阿呆よりも不運だなこりゃ。

それにしても良く生き延びたよな、ホント。とりま心の中で合掌しとこう。


「だろ?

俺らでも多分こんな壮絶な過去を持っている奴なんてそうそう居ないだろうな。

でだ。シュウが起きたらどうする?

多分、起きたら発狂するぞ?」


「うーん、そこなんだよなぁ………。」


なんて言っているうちに、俺は、建物の中にある影時計が7時半を指していることに気づいた。

確か、午後8時までに『慈愛の心』って宿で『氷帝』さんたちと集合だったはずだ。

とりあえず、俺だけ『慈愛の心』に行って状況を説明しよう。

もしかしたら何かアドバイスが貰えるかもしれない。


「やっべ!おい、ギル。ちょっと『慈愛の心』に行ってくる。

すぐ戻ってくるから、ちょっと待っててくれ!」


(魔手装甲、『ウィンド・ブースト』!!)


――――――――バキッ。


「お、おい!?ロイド――!!???」


「うおお!?床!床壊してるって!!」


俺は、後ろから聞こえてくる声を無視してスラムの中を駆けて行った。

つーか、よく俺って床とか窓とか壊すよな。よし、次からは気をつけるか。

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