140話 何よりもォォォッ!!速さが足りないッ!!
「じゃあ行くぞ……よーい、ドン!!」
「「『ブースト』!!!」」
(『ウィンド・ブースト』!!!)
号令とともに、俺達は走りだした。
地図を片手に、全速力で。
「くっ、流石シュウ。まさか『弾壁』と『跳躍』のコンボを一人でやるとは………。なら、魔手装甲の出番だっ!」
(魔手装甲!!)
因みに、現在俺達がやっているのは競走である。
場所は『初心者用ダンジョン』。スタートは1階層からで、ゴールは『キングスライム』の目の前だ。
特別ルールとしてここでモンスターを倒して素材を持ち帰った場合、2000メルに付き1秒分タイムが縮む。
タイムは一番最初に着いた奴を起点に決める。
どういうことかというと、一番最初にゴールした奴がそこからカウントを始めて、何秒後に他の奴がゴールしたかでタイムを競うって訳だ。
優勝賞品は特にない。
さて、ここで現状把握といこう。
まず、一番速いのはシュウだ。
『ブースト』『弾壁』『跳躍』のコンボで誰よりも速く進んでいる。
モンスターは基本無視のようだ。
次に、俺。
『魔手装甲』と『ウィンド・ブースト』を掛けているが、俺はモンスターを殺しながら進んでいる。
因みに、収納袋は置いてきた。流石にあれはセコい。
最後に、ギル。
ギルは『重力魔剣』と『餓狼牙』を双剣のように持ち、一番モンスターを屠っている。
素材も、大剣でぶっ刺してそれを袋に入れているようだ。
素材の質は下がるが、そこは数でカバーする作戦のようだ。
それでも全員がとてつもないスピードだ。
シュウに至ってはもう既に2階層に行っている。
周りの冒険者が変なものを見る目で見てくるが、今は無視することにする。
変に気にしてタイムロスがあったら大変だ。
なんて考えているうちに、1階層を突破。
1階層が一番広いので、ここさえ突破できればだいぶ楽になる。
ここまで回収した魔石の数は9個。スライムは全て無視している。
行けるかもしれない。
俺は、地図を見て最短ルートの割り出しを始めた。
「やった!!一番乗り!!!1、2、3、4、5、」
5階層についた所で、シュウの声が聞こえた。
クソ、やっぱし一番乗りは無理だったか。
けど、ここからゴールまではほぼ一直線。
小回りが利かない代わりに加速だけは凄い『魔手装甲』の実力をとくと見せてやる!
「ハハハ!!!俺の回収した魔石の数は13個!!!!これは、勝つる!」
「マズイ!!!7、8、」
最後だ!全力全開最高速!
俺は、この一瞬に全てを掛ける!!!
「『フレイム・ブースト』ォォォォォ!!!!!!」
――――――――バキッ!!!
強い踏み込みに床が悲鳴を上げる。
そんな破壊音と共に、俺の体が少し宙に浮いた。
いける!今なら音速も夢じゃないッ!!!
さあ、ダンジョンの壁に突撃してやろうではないかぁ!
「9!!!!」
「10秒以内にクリアアアアァァァァァァァァ!!!!!」
「うわあああああああっっっっ!!10!
――――――――ドゴォォォォォン!!!!!
俺の体が壁に激突する。
(痛っ!!コリャどっか骨折れてるな。『ヘイレン』!!)
流石に、無傷とはいかなかったか。
かなりスピード出てたし。
まあいいや、この勝負俺の勝ちっ………………。
パキッ。パキパキパキッ。
「12、えっ!?」
「ちょ、おま!?」
魔石割れだしたんだけど!?
あれか、突撃の衝撃で割れだしたとか!?
試しに袋の中を確認すると、無事なのは僅か五個。
「くっそおおおおおお!!!!!」
俺がゴールしてから23秒後、ギルもゴールした。
「えーっと?お前らみたいなのが何で『初心者用ダンジョン』行ってたんだ?」
「暇つぶしだな。」
「ハァッ!?」
俺等は、素材の買い取りをして貰うためにギルドに戻っていた。
結局、俺の魔石で無傷だったのはたった4個。
泣きたくなったぜ。
「そんなことは置いといて、素材の買い取りを頼む。」
「暇つぶしにダンジョン行くとかなんつう事を……………。
あ、ああ、素材な。出してみろ。」
「ほい。」
砕けた魔石も一緒に出しておこう。
もしかしたら買い取ってくれるかもしれん。
「いや、何で砕けた魔石をドヤ顔で出すんだよ!?
一応買い取るけど!普通ドヤ顔で出すか!?」
「フッ、いつから俺が普通だと錯覚していた?」
「ウザい!コイツ今日は異常にウザい!」
「諦めろ、今日の俺は魔石が割れちゃって鬱憤がたまってるからな。
少々お前に八つ当りするけど我慢しろ。」
「命令形!?
あ、21000メルな。」
「負けた!!」
シュウが俺の買取額を聞いてビックリする。
フッフッフ、俺の勝ちだなぁ!
「負け?何のことだ?」
「いんや、こっちの話。で、次はギルの分の買い取りな。」
「おお?今日は一緒に出さなかったのか。
ておい!スライム魔石がめちゃくちゃあるじゃねえか!」
「全部で16個あるぜ!」
「何!?えーっと、ちょっと待てよ。
…………………。
本当に16個ありやがる………………。
96000メルだ。まあ、欠けてなけりゃあ良かったんだが………。」
「「負けた!?」」
「よっしゃ、スライムの勝利だ!!!」
「だからお前ら、何の話をしてんだよ!?」
チックショウ!!!負けたッ!!
スピード勝負なら負けないと思ってたのに!!!




