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Shortstory

月曜日の友人行方不明な女の子

作者: 百円

 月曜日とは何て憂鬱な曜日なのだろう。厳密に言えば、日曜日のサザエさんのエンディングあたりから憂鬱だったのだが、時を重ねるごとに、どんどん重く圧し掛かってくるものを感じる。ああ、憂鬱。

 この気持ちとは正反対の爽やかな朝に毒付きたくなる。スズメが能天気にちゅんちゅんと煩わしく空を飛んでいるのも、無駄に柔らかい日差しも、真っ白で涼しげに浮かんでいる綿雲も、何もかも、気に入らない。


「ひーろこ」


 突然肩を叩かれ、憂鬱な世界から明るい世界に引き込まれた感触がした。顔を覗き込まれ、思わず仰け反る。アユミの栗色の柔らかそうな猫毛がふわふわ揺れた。丸く、どこか眠そうな目は本当に猫のようだ。

 私は、ふと、あたりを見回す。彼女以外には私と同じ制服を着ている人は見当たらない。

 今回も、週の初めに、初めて顔を合わせたクラスメイトはアユミだったな。アユミとは家が近所だから、当たり前といえば当たり前なのだけれど、気持ちが少しだけ浮き上がるのを感じた。


「ハウアーユー?」


 ノットファインセンキュー、と一応ノリに答えて言ってみる。自分の気持ちが反映されたような、生気のない声が出て少しうんざりした。ため息を出そうとすると、彼女は可笑しそうにけらけら笑った。


「おーけー。おーけー。アイムファイン。ベリーグット」


 彼女は親指を立てて、文法めちゃくちゃな英語を話してみせた。けれど、雰囲気は伝わってきて、私もけらけら笑った。

 ふと、風が顔を撫でる。ついこの前までは突き刺すような冷たい風だったのに、今吹いた風は思ったよりも生温い。こんな風を優しく感じたのは、彼女の明るい声が空気を和ませたからだろう。

 アユミは私に他愛無い話をしてみせた。どこどこのクラスの何とか君はカッコいいとか、昨日のバラエティー番組に出ていたお笑い芸人はつまんなかったとか。興味が全く沸かない話題ばかりだったけれど、彼女が言うと飽きずに楽しく聞くことが出来るから不思議だ。

 だんだん人がちらほらと見えてくる。

 アユミは栗色の髪をかき上げ、ふう、とため息を吐いた。そして、遠くにちらつく生徒の影を、目を少しだけ細めてみる。


「ねえ、ひろこー」

「んー?」


 アユミが語尾をだらしなく伸ばすので、私も真似して伸ばしてみた。


「ごめんねー」

「なんでー?」


 昨日の夕ご飯なんだった?

 そんな雰囲気で問い返す。カレーだったよ、みたいな感じで答えてくれると踏んでいたのだが、彼女の顔は少しだけ暗く、沈んでいた。


「分かってるでしょう」


 突然語尾をパツン、と切られて思わず立ち止まった。そして、彼女も立ち止まる。私は彼女の目をまっすぐ見ることは出来なくて、鼻のあたりを見つめる。唇が微かに震えているのが感じ取れた。


「ひろこのこと、学校で無視してゴメンって意味」


 空気が不穏に震え、寒気がした。また、現実に引き戻される。

 そうか、これは偽善なんだ。私は学校ではクラスメイトに嫌われる対象で、彼女に同情されている立場なんだ。


「ひろことは、仲良くしたいけど、学校まで一緒に行きたいけどっ……」

「私と一緒に歩いてるところ、他の友達に見られたくないんだよね。分かってる」


 私が言葉を継ぐと、友人、否、ただの優しいクラスメイトのアユミは泣きそうな顔になる。これでも精一杯の優しさを込めて言ったのだけれど、彼女は顔を歪ませ罪悪感をありありと浮かべた。


「ごめん、ね」


 アユミは小さく呟き、走り出す。私は立ち止まったまま、彼女が小さくなる様子を眺め、やがて、彼女に友達がまとわりついてくる様子も眺めた。にこにこと優しげに、さっきと変わらない笑顔で友達と話しているのだろう。

 ごめんね、なんて、無責任だなあ。本当に無責任。でも、彼女には全く罪は無いのだ。私は心の中で勝手に結論付けて、目を伏せる。

 ああ、憂鬱。この気分の上下を、また、一週間繰り返すのか。

 私はまた、一人になって、一歩を踏み出す。一歩を踏みしめるたびに、何かが重く圧し掛かってくるのを感じた。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでぱっと「たゆたう」という単語が思い浮かびました。読み口軽くも、風を抑え込んでなんとか宙に舞うも軽飛行機のような危うさが漂います。諦めの低空飛行と言いますか・・・。 アユミの「ごめんね…
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