【8】
この日の夜は、雷がゴロゴロと鳴り、近付いてくるのが分かる。
そんな日に限って、ママは「仕事が片付かなくて、帰りたいのに帰れない!!」って連絡が入る。
「う〜〜…」
小さな頃から、雷が苦手。
ゴロゴロって鳴ってるだけなら、まだ平気なんだけど。
ピカって光って、さらに、ドーーンって――あれが耐えられない。
子供の頃は、鹿島家に逃げ込んでたけど、さすがにいつまでも子供じみた事出来ないし、何よりヒロ兄の傍に居る事は、もうしてはいけない。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴り、「美雨〜〜〜!救助隊、参上〜〜!」と笑いながら、実結の声が聞こえて、慌ててドアを開け放つ。
私は、裸足のまま実結に抱きついてしまった。
「相変わらず、雷が嫌いなら、遠慮せずウチに来ればいいのに」
「………うん」
「さ、もう寝よ。夜も遅いし」
「………うん」
私が鹿島家にお邪魔した時には、既に実結の部屋に二組の布団が敷かれていて。
机の上にある置時計の針を見ると、12時10分を過ぎている。
少しずつ雷の音が去って行く。
そして、ざーっと強い雨が降り始める。
「――こんな風に一緒に寝るのも、もう出来なくなるのかな?」
「………」
雨風がうるさくて、実結の声が聞こえないフリをする。
実結は、独り言を言うかのように、気にする事無く続ける。
「――折角、一緒の高校に合格出来たのに、せめて一緒に卒業したい」
「………」
私だって、実結と同じ気持ち。
ずっと、一緒に居たい。このまま、変わらずここに居たい。
「――おやすみ」
「………」
すぐ傍で眠る実結は、そのまますーっと寝てしまった。
規則正しい寝息と、私が吐き出す溜め息だけが、しんみりした部屋の空気を微かに震わせている。
そして、隣の部屋から声らしき物が聞こえてくる。
「……い、……いで…くれ…」
はっきりを聞き取る事は出来ないけど、確か、隣の部屋は――ヒロ兄の部屋。
「み…、……きだ!」
何を言ってるのか、聞き耳を立ててみても雨音の方が大きくて聞き取れない。
どこか、うわ言の様な、呻いてる様な――。
う、呻いてる?!
具合が悪くて、苦しくて声が出せないとか!!
記憶は無くても、病気で亡くしたパパの事が脳裏を過ぎる。
ぶわっと嫌な汗が全身を纏うのを感じ、無我夢中で隣の部屋へ駆け込んだ。
ベッドに眠るヒロ兄の肩を揺すりながら「大丈夫っ!?」と何度も声を掛ける。
先に、実結を起こせば良かったの?
なかなか起きてくないヒロ兄は、眉間に皺を寄せ辛そうに「み……」と、何か訴えかけてくる。
「……わ、分かった!!水ね!!」