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mercy rain  作者: 塔子
8/57

【7】

***


side:大樹



胸に、重い小石がいくつも詰まっているような、息苦しさを感じる。


家に帰ったみれば、実結がギャーギャーっとうるさくて…。


美雨の髪を返せ!とか、何で短く!とか、そこまで切る必要が!とか…。


そんな大きな声を出して、喚かないでくれ!!


おまえ以上に、切った本人が一番落ち込んでいるんだから…。


美雨ちゃんの髪。艶のある黒髪、サラリとしたストレート。


いつの頃からか、その髪を切る事無く長く伸ばし始めて…。


あんなに綺麗で長い髪を俺は仕事とは言え、ばっさりと切ってしまった。


美雨ちゃんは「イメージチェンジです」って最初は言ってたけど、話していく内に「変わりたいの。だから、まずは外見から」と意味深な事を口にする。


変わりたい?


外見も?、内面も?



「やっぱり、失恋が原因なのかな…?」



実結が小さな声で呟いた。


?!――失恋?美雨ちゃんが?


「実結、今、言った事、本当なのか?」

「は?何が?」

「失恋って美雨ちゃんが?」

「……たぶん、美雨がそう言ってたから」


でも、相手は誰なのかは知らないよ、美雨は最後まで教えてくれなかったからと、実結はしょんぼりして話してくれる。


教えてくれてもいいのにね…と――。





***



side:実結




私の横に並ぶのは先日、見事な髪を切り落としてしまった美雨。


元から、おっとりとしてる性格だけど、明るく元気な女の子。


その明るさが髪を切ってから一段と増している。


同じクラスの女の子が、「綺麗になったね」と言っているのを耳にして…。


髪の長い時はお人形のような大人しい感じだったのが、活動的で活発な女の子に見えてくる。


「すっごく、軽くなって、髪を洗うの楽だよ〜!乾かすのもタオルドライだけで済むんだもん、これなら、もっと早く切ってしまえば良かったよ〜」


こんな事をさらりと言ってくる。


「ねぇ、美雨?」

「ん?」


「美雨の好きな人って、どんな人?」

「え?」


「あ、えーっと、どこの誰とかが知りたいんじゃなくて、えーっと…」

「実結、――その人はね…」


美雨が話してくれる。


今まで、何度聞いても話してくれなかったのに…。


その人を想うだけで良いの。


長く近くに居すぎたから、わがままになってしまっていたの。


いつか、時間が経って良い想い出に変わると思うの。


その時が来たら、また実結に話せると思う。


だから今は、何も言わないで――と。


そして、最後に


「実結…、恋をすれば誰だって失恋ぐらいするわよ!」

「…そ、そうかもしれないけど…」


美雨の笑顔を見ていると、心の奥に小さな痛みを感じるのは、どうしてだろう?





***



side:美雨




少しずつだけど、確実に準備は進んでいる。


ママの再婚と、引越し。


普段使わない荷物も新居へと運び出している。


部屋の中が淋しくなっていくと同時に、私の心の中も淋しさを増していく。


高梨さんが「新しい高校は、どこにしようか?」と訊いてくる。


ここは家から一番近い高校の校風はこんな感じ、制服はこんな感じ、といろいろ助言してくれる。


一度、学校を見に行ってみるのもいいかもね?とさえ言って気を遣ってくれる。


まだまだ、先の事とは言え、もうママの再婚も引越しも決まっている事だから、


そんな話、まだ聞きたくないとは言えない。


言葉が、心の奥底から言葉が溢れそうになる。


『……!今、私、何を言おうとした?』


自問自答している自分に気付く。


その言葉は――決して言ってはいけない。





『ここに居たい、私はどこにも行きたくない』





目には見えない小さな箱にその想いを詰め、鍵を掛け、沈めてしまおう。


私は、投げ捨てた。


いくつもの想いが眠る、心の海底へ――と。




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