【6】
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side:実結
朝、遅く目覚めると、うじうじとウザイ生物が横たわっている。
しかも――鼻血を出して…。
「あ、兄貴、何してるのよ?――っ!」
はっ!!――何かが頭の中で光が走った。
慌てて靴に履き替えるのも忘れ、スリッパのまま階下の美雨の部屋へ駆け込んだ。
だって、兄貴があんな風にうじうじってなる時はいつも美雨がらみと決まっている。
「み、美雨ーっ!大丈夫ーっ?」
「?――実結、おはようって、もうすぐお昼だけどね」
「な、何、余裕出しているの?あ、あのバカ兄貴、何かした?」
「?――一緒に朝ご飯食べただけだけど」
そう言って、美雨はにっこり笑う。
いつもと変わらない笑顔だけど…
「美雨、その格好…」
「えっ?何?変かな?ママのお下がりの服で、部屋着なら十分でしょう」
確かに潤子おばさんはまだ30代後半で可愛い感じの人だから――って、違う!
何、そのデザインは?
「美雨、谷間見えてる」
「え?」
美雨が視線を自分の胸元に移す。
「…ま、部屋着だし、外に出なければ…ね?」
と、言う美雨。
「……」
見たな、兄貴。
だから、鼻血出して悶々としてたのね。
***
side:美雨
その日は、華江おばさんのお店に寄って、その帰り。
いつもは実結と一緒だけど、この日は私だけの用事があって…。
「今さらだけど、本当に良かったの?」
と心配げに華江おばさんが尋ねてくる。
「うん、勿論!」
さっぱりとした笑顔を見せて答えてみる。
「あ、ヒロ兄!今日はありがとう!」
「…う、うん」
?――さっきまで、凄く元気だったのに…。どうしたんだろう?
私は美容院を後にする。
風に髪をなびかせ…って、それはついさっきまでの私。
今の私は、なびかせて歩くほどの髪も無く、短くなった髪をフルフルと振ってみる。
軽〜い!
長かった髪を思い切り短く切ってもらった。
もちろん、ヒロ兄に。
今までも想いをこんな風にして切り離していこう。
きっと、少しずつ思い出に変わっていく。
それに、ヒロ兄は変わらずこれからも私の兄として接してくれるはず。
だから私も可愛い妹でいよう。
あの日、ヒロ兄は別れてしまったけど、彼女に言った。
実結も私も含めて“妹達”だって。
私がこの想いさえ捨ててしまえば、離れてしまっても永遠に妹として側に居る事が出来るのだから。
「きゃ、きゃあ〜〜〜っ!!!」
実結が叫ぶ。
ひ、ひどい!!私の顔を見てそこまで驚かなくても…。
「なに〜っ?、髪が無い〜〜〜っ!!」
「な、何ってるの!カットして短くしたんだよ…」
実結は私の両肩を掴み、私の顔を覗き込んでくる。
「どうして?どうして?そこまで短く切ったりなんかしたのよ〜〜!!」
「い、イメージチェンジ…」
うわぁ〜〜っと実結が頭を抱えている。
ちょっと髪の毛を切っただけなのに、この騒ぎようは…。
「私、好きだったのよ〜〜っ!!美雨の髪の毛〜〜〜っ!!!黒くて艶があってスーパーストレートで〜〜〜っ!!!」
ほ、褒めてくれるのは、嬉しいけど…。
「どうして、私が美容師になるまで待っててくれても良かったのに〜〜っ!!」
それって、あと何年待てばいいのでしょうか?
5〜6年後?い、いくら何でもそこまでは待てないって!
実結が私をキっと強い瞳で見つめてくる。
「美雨の髪、切ったの誰?お母さん?ま、まさか――あ、兄貴…」
「うん、そうだよ!この前の休日の日に、切らないの?って言われてから、お願いしたの」
「あのバカ!!余計な事を…!!!」
こ、怖いよ!実結…!!
「で、でも、気に入ってるから!この髪型!ヒロ兄に少し無理言って短く切って貰ったんだから」
だって、カットしてる間も「こんなに切ってもいいの?」って何度も何度も訊かれたし…。
――って、実結、ちっとも私の話、聞いてない…。