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mercy rain  作者: 塔子
54/57

【53】

最終話です。

3人で、夕食の準備をする。


その動きは無駄が無く、完璧な連携で親子丼が出来上がっていく。


サラダやお吸い物まで何も言わなくても作る。


勿論、お新香も鹿島家から持参する事忘れない。


一緒に、席に着き手を合わせて食べ始める。



「今日、仕事は?早く終わったの?」



いつもこの時間は、美容院で仕事をしている時間。


私の質問に、横に座る実結もチラっと視線を上げ反応してる。



「今日は、早く上がれってお袋が……」



実結は「ふ~ん」と言って、お新香をボリボリと食べている。


私はただ、またこんな風に3人で過ごせるのが嬉しくて、明日は何を作ろうかと考えるのに一生懸命になってしまって、結局試験勉強もせずに実結と2人でお風呂に入り、実結と一緒の布団に入って寝てしまった。








夢の中で、私は初めて実結と出会った時の事を思い出していた。



新しい保育園に転園して初日。


金色の長い髪の人形て遊ぶショートヘアーの女の子。


女の子は、器用に人形の髪を編んでいく。



「じょうずね」



私が声を掛けると女の子は、ただジーっとわたしを見て。



「おなじに、してもいい?」

「?」



まだ、ちゃんと返事をしてないのに、あっという間に私の長い髪は人形と同じ髪型されていく。


出来上がりに満足したのか、その子は私を見てニコーっと笑う。



「あそぶ?」

「うん!」



「み‐ちゃん、お迎えよー」



先生に名前を呼ばれたと思った私は、自分バッグを持って先生の下に行く。



「あら?みうちゃんじゃなくて、みゆちゃんのお迎えよ」


先生は「名前呼び間違えたかな?」と言って、私に謝ってくれる。



「みゆ?」

「みう?」



ここで、お互いの名前を知る。


実結を迎えに来たのは、“お兄さん”という人。


なのに、実結は「帰らない!」と言って先生や“お兄さん”の言う事をきかないでいる。



「お母さんに迎えに来てって言っといて!お兄ちゃん!」



それだけ言って、実結は私の手を取って遊びの続きをしようとする。


“お兄ちゃん”は、先生と何やら話をして、帰ってしまった。



「あとで、おこられるよ」

「はやくかえっても、つまらないもん」


「でも…」

「もっと、みうとあそぶー!」



一人一人お迎えが来ては、園児が帰っていく。


空はすっかり暗闇に包まれ、月の明かりがとても綺麗。



「みゆちゃん。お母さんがお迎えに来てくれたわよ」



と先生が言えば、実結は素直に帰りの準備をする。



「実結!わがまま言わないって約束でしょ!帰ったらすぐに大樹に謝るのよ!」

「は~~い」



間延びした返事に反省の色は……。



すみません!遅くなって!と、入って来たのは――。



「ママ!」

「美雨!遅くなってごめんね」



いつもなら、最後まで残ってしまう私はやっぱり不安と寂しさを感じていたけど、今日は実結も居たから平気だった。だから、ママに「みゆがいたから、だいじょうぶよ」と言ってあげる。



「え?」

「あら」



母親同士が顔を合わせ、ママは「先日は、――」と言ってお辞儀をする。



「確か、下の階の藤方さん?」

「はい。すみません。うちの娘が――」



実結のお母さんは「いいの、いいのよ~。気にしないで~」と、とても豪快に笑う。



「同じアパートなんだから、一緒に帰りましょうよ!」







母親達の後ろを実結と手を繋いで歩く。



「いっしょに、あそぶ?」

「うん!」


「いっしょに、かえる?」

「うん!!」





翌日から、実結の言った通りに一緒に遊んで一緒に帰る。


お迎えは“お兄ちゃん”。


3人横に並んで、手を繋いで帰る。


もう一人でママの帰りを待つ寂しさから開放してくれた、実結とヒロ兄を何より大切だと思う。


あの頃から今まで、ずっと。


いいえ、これからも、ずっと。











目を覚ませば、ご飯の炊けた良い匂いが鼻をくすぐる。


横でまだ眠っている実結を起こさないように、そっと起きて制服に着替える。


キッチンに行けば、ヒロ兄が朝ご飯の準備をしてる。


その隣に立って、私はお弁当のおかずを作り始める。



「おはよう、ヒロ兄」

「おはよ、美雨ちゃん」



挨拶だけ交わして、会話が無くても、こんな風にまたヒロ兄の隣に居れるのが嬉しい。



「ねぇ、ヒロ兄」

「…美雨ちゃん」



同時にお互いの名前を呼ぶ。



「先に、どうぞ」

「美雨ちゃんから」



譲り合っていても仕方ないので、お言葉に甘えて私から。



「ずっと、ココに居ても良い?」



見上げた先にヒロ兄の少し驚いた顔。言わない方が良かったかな?と、少し後悔の波が心に寄せようとした時。



「俺の方こそ、ココに居ても良い?」



真剣な眼差しで、見詰められると胸がトクンと大きく打つ。


早く返事を、と思うのに言葉が出て来ない。


ただ、ゆっくりと一つ瞬きをすると、ヒロ兄は優しい笑みを浮かべてくれる。




「バカじゃないの!!!良いに決まってんでしょう!!!!」




間に割って入ってきた実結は「今までも、これからも、ずっと、一緒なんだから!!!!」と、朝から大きな声で『3人ずっと一緒宣言』をする。




「兄貴!美雨の事、泣かせたら、私が許さない!」


「兄貴の事、嫌いになったら先に私に言ってよね」




実結が私とヒロ兄に、それぞれ気持ちをぶつけてくる。


大丈夫だよ、嫌いになんてならないよ。そんな気持ちを込めてヒロ兄と実結に笑顔を見せる。



「実結の分のお弁当も出来たよ!さぁ、ご飯食べよう!!」



幸せは、ココにある。



いつもと変わらない日常が、私の幸せ。





「兄貴!いってきま~す!」



実結に続いて、玄関を出る。



「いってきます、ヒロ兄!!」


「いってらっしゃい。実結、美雨ちゃん」



今日も、帰ってきたら『ただいま』って言うから。



その時は、いつもと変わらない笑顔で『お帰り、美雨ちゃん』って、言ってね。










  END      




1年以上も掛かって、ようやく完結です。


長い間、最後までお付き合いして頂きありがとうございます。


お気に入り登録数が増え


メッセージが届く度に、頑張ろうという気持ちになりました。


おまけ話がありますので、良ければまた遊びに来てください。





背景画像は、 URL http://iroempitsu.net/

「Mariのいろえんぴつ」管理人まりまり様からお借りしたものです。


ありがとうございました。


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