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mercy rain  作者: 塔子
51/57

【50】



アパートの鍵には、私が使っていたキーホルダが付いていた。


今まで通り、あの場所で暮らしても良いって事よね?


ヒロ兄と実結と私と――。


……こうなるって分かっていて、引っ越しの時に家財道具ほとんど置いていったのかな?


次の人に貸す為に、置いて行くってママは言ってたけど。


まさか…ね?


でも、ママがこの鍵を私とヒロ兄に渡したという事は――。


ヒロ兄と、お付き合いしてもOKって事よね?


自分で頭の中で、想像してみる。



……ぼっ!!!!!!



顔から火が出てもおかしくないほど、熱く真っ赤になってしまう。



でも、お付き合いって、どうすればいいの~~?








side:大樹




家に帰るなり、母親と実結に質問攻めにされた。


こうなる事は予想するには容易く…。


無言で衣里おばさんから貰った階下の部屋の鍵を見せると「あれ?その鍵?!」と実結は気付き、母親は「OKって事ね!」と喜びを露わにした。


この鍵を託してくれたという事は…――俺も一応社会人だ。認めてもらうには、自分自身で生活基盤を作ってこそ、という事なんだと思う。


家賃も払って、自立した生活を送って。そうすれば、美雨ちゃんと一緒に……。


待て!美雨ちゃんは、まだ高校生。


卒業する頃には、2人でちゃんと生活が出来るまでにしないと!!



「――貴!兄貴!!」

「………」


「このボケ兄貴ーーっ!!!!」

「ぐはっ?!」



いきなり、前触れもなく実結の肘が鳩尾に入る。



「実、結!おま、え、何、す…」

「寝言は、寝てから言え!」


「っ!!!!!」

「その年で、妄想ダダ漏れってイタいわ~」


「………」

「美雨と、ちゃんとしたお付き合いするんでしょう?」


「あ、当たり前だ」



実結が、ニヤついた顔をして言う――「これからは、応援してあげるよ」と。


そして、母親は「お祝い!お祝い!」と今にも踊り出しそうな軽い足取りで「あ!先に電話!電話!」と舞い上がっている。


はぁっと、大きな溜め息。


初めの一歩を踏み出したばかりの俺達に、問題はこれからも多く起きてしまうのだろう。


でも、美雨ちゃんとの未来は――そう思うと力が漲ってくる。



でも、付き合うって?


いつもは、女の方から「付き合って」と言われ、「別れて!」と言われて終わるような付き合い方しかしてない。


ど、どうやってするものだったっけ?!









side:実結




兄貴は美雨を送って行った。


最悪、兄貴がこれでもかってぐらい落ち込んで帰って来ても、私は受け入れるつもりでいた。


なのに兄貴の手には、美雨の家の鍵。


衣里おばさんから貰ってきたのは、明白で。


美雨との事も認めてもらったんだと、お母さんみたいに踊り出すほどまではいかなかったけど、とにかく嬉しかった。


2人の交際がスタートする。


………、あまりピンと来ない。


幼い頃からずっと一緒にいたせいか、家族同様の生活だったという事もあって、兄貴みたいに妄想は膨らまない。


そんな事を考えながら、布団の中に潜る。



「…美…ちゃん!俺を、捨…ない…、くれーーっ!!」



この世の終わりがやって来たかの如くの叫び声。


ボケ兄貴!


まだ付き合ってもない。交際も始まってもないのに、もう夢の中では美雨に振られてるんだ…。


はぁっと、大きな溜め息。


やっぱり、兄貴は残念な兄貴だ。と、思いながら眠る事にした。





翌朝、いつも通りに学校へ向かう。


違うのは隣に美雨が居ない事。


学校に着けば居る事は居るのだけど、保育所時代からずっと一緒だったから一人で歩くのはとても落ち着かない。


きっと、美雨はおじさんの車に乗って送ってもらってるんだろうな~。


自家用車で登校って、どこかのお嬢様みたい。


…あれ?


……あれは、おじさん?


少し離れた所に一台の自動車。その横に佇むスーツを着た男の人。


目が合ったかどうか、この距離では判断が難しいけど、その男性は私を見るなり一目散に駆け寄ってくる。



あ、やっぱり、美雨のおじさんだ。



「おはようござ――」

「実結ちゃんだね?」



朝の挨拶すら最後までさけない勢いで、私=実結である事を確認させられる。


ここは、コクっと頷く。



「美雨は、もう学校に着い――」

「是非、君に頼みたい事があって」



まただ。最後まで私の話を聞いてくれない。



「あの、頼みたい――」

「実は、これを君に託したい」


「あ、あの…」

「美雨ちゃんを守って欲しい」



自分の言いたい事だけを言って、おじさんは車に乗って去って行く。


私は、小さく消えていく車を呆然と見送るだけ。


そして、私の手のひらの上には、鈍く光る銀色のもの。



「これって――」



昨夜、兄貴が大事そうに手にしていたものと全く同じ鍵だ。



私の新たな任務が、スタートした瞬間だった。





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