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mercy rain  作者: 塔子
5/57

【4】

***


side:実結




今までずっと、一緒に過ごして来た美雨と別れる日が来る。


まだ少し先の事って分かっていても…。


衣里さんの再婚は、とてもおめでたい事だけど…。


幼馴染みで親友の美雨が居なくなるのは、やっぱり淋しい。


――そして、私以上に落ち込んでいるのが、この部屋に転がっている生物。



「コラーっ!兄貴っ!!うじうじといつまでもー!!仕事はーっ?」


「今日は、休む…」


「働け〜〜〜〜っ!!」



お母さんも兄貴が美雨の事、好きなのを知っている。


どうして、知ったかって言うと、3年ほど前の深夜。


夜中に思いっきりデカイ声で


『美雨ちゃ〜〜んっ!好きだ〜〜〜っ!!』


って、叫んだ。



お母さんとおっかなびっくりで兄貴の部屋を覗いたら、普通に寝てた。


所謂、寝言だ。全く、安眠を邪魔されて迷惑甚だしい。


それ以来、兄貴は家族には隠す事無く開き直り、現在に至る。


私は、美雨から「好きな人、居るよ」って聞いてたから、兄貴には「対象外!圏外!」って言ってるのに、諦めが悪いというか…。


小さい頃から一緒なんだから、美雨は兄貴の事、お兄さんとしか見てないはずなのに。


お風呂にも一緒に入った事のある男なんか普通好きなる?


添い寝して一緒に寝た事のある男なんかと恋愛は出来る?


だから、私は兄貴に言う!


そこに愛があっても、それは兄妹愛!家族愛!



私は、美雨には好きな人と幸せになって欲しいと思うもの。








***



side:美雨





今日は、雨。


しっとりとした雨の日。


乾いた世界が潤っていく…、そんな感じがする。


「美雨、いつ引越し?」


実結が、傘を持って正門に向かう。


いつものように一緒に下校する。



「う〜〜ん、2学期には新しい高校に転校する予定」



あ、でも、転入試験に合格すればね!って付け加える。


そっかーっと、実結は少し力を抜いて答える。



「でも、ずっと友達だよ!実結」

「当たり前!美雨とはずっと親友だからね!!」



新しく始まる未来に、変わらないものがあってもいいと思う。


私にとって、それは実結の存在。


二人して、傘を開く。


示し合わせたわけじゃないけど、いつの間にか同じ色の傘を手にしている。


ピンク色の傘。


あの雨の日、ヒロ兄が迎えに来てくれた日と同じ色の傘を好んで今でも選んでしまう。


あの日の事は、いつまでも心の中に、しまっておこう。










下校途中で「あ…」という小さな声を出してしまった。


視線の先には、ヒロ兄と――女の人。



「あっ!」



実結が、気付いた。


「あのバカ兄貴っ!!あんな所で!!」と言って、ヒロ兄に向かって歩き出す。


水色の傘をヒロ兄に差しかけ、二人向き合い一つの傘の中に居る。


背も釣り合ってるし、遠目からでも綺麗な人だと分かる。



「ちょ、ちょっと、実結!!邪魔しちゃ悪いよっ!」

「どんな女なのか、見てみたいじゃない!大丈夫、少しぐらいなら!」



ニヤリと笑う実結。


大きく手を振って「兄貴ぃ!」とヒロ兄を呼んでいる。


でも、近付くにつれ二人の様子がおかしいのに気が付く。


私と実結は“?”と思いながら二人の所へ。



バシっ!!



彼女は傘を手放し、その勢いでヒロ兄の頬を叩く。


「ちょっと!そこの女ーっ!!ウチの兄貴に何すんのよーっ!!!」


実結はどんな時でもヒロ兄の味方。きっと、ヒロ兄の方が悪いとしても…。


「実結…、美雨……」


ヒロ兄が少し驚いて私たちを見下ろしてくる。


「――…?!」


彼女のグロスで艶めく唇が歪む。

すっと冷めた目で私と実結を見比べる。


「どっちなの?」


どっちって、どういう意味?


「妹達は関係無い!」


私達と彼女の間にヒロ兄が割り込んでくる。


「そうね、今更ね!この、ロリコン変態っ!!!」


完全な捨てゼリフ。


実結が片手で頭を抱え、呆れ果てている。


「兄貴…、まさか、また、例の寝言?」

「まぁ、たぶん…その、いや、今回は…うわ言」

「言い返せないわ、その通りだもん!ロリコン変態」

「………」


な、なに?何の話?


ロリコン?変態?誰が?


 ヒロ兄は、何も答えない。それって、肯定?否定?


私には、私にだけ分からない話をこの兄妹はしている。


「ねぇ、実結、……あの……」

「――!…あ、ごめんね、美雨!とんだ修羅場に巻き込んじゃって」


しゅ、修羅場っ?!


って事は、やっぱり今、ヒロ兄と彼女は…!!


実結は「兄貴、先に帰るから」と言って私の手を取り、この場を去ろうとしている。


「ど、どういう事?実結」

「えーっと、兄貴のヤツさ…」


実結は、慎重に言葉を選びながら話してくれる。


「あぁ、何て言うか…。言っちゃったみたいなのよね」

「?」

「彼女の前で、違う女の子の名前を、無意識に…」


それって、本命さんの名前?!


つい無意識に、名前が出てしまうほど、好きなんだ――その人の事を。






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