【45】
「おかえり、早か…って、美雨?!何で?」
実結が、驚くのも無理は無い。
帰ると言って、出て行ったのにまた戻ってきたのだから。しかも、雨に濡れて。
結局、降り出した雨のせいで、引き返すしかなかった。
「いつまでも、そんな所に居ないで上がりなさい」
と言って、華江おばさんがタオルを渡してくれる。
「美雨ちゃん、先にお風呂入って。実結、着替え貸して上げなさい」
玄関を上がって、少し強引に華江おばさんに脱衣所に連れてこられた。
「あ、あの、おばさん」
「話は、後で。ふふふ」
着ていた制服を半ば奪うように取られ「乾かしておくから」と言われれば、「お願いします」と言うしかない。
温かなお湯の中で考える。
自分の気持ちを後先考えず、言ってしまった。もう幼馴染みには、戻れない。
妹として、存在する事も出来ない。
でも、もうこれ以上兄として見る事も出来なければ、妹として見られるのも嫌だ。
自分の気持ちを後先考えず、言ってしまった。
ただ言えるのは、もう迷わない!誰に何を言われても、私の気持ちは変わらない。
誰に何を問われても、私は心を偽らない。
誰に何を訊かれても、私の想いは消えはしない。
「…――う、みう!美雨!!」
名前を呼ばれてる事に気が付いて、驚いて湯船から立ち上がってしまった。
「え?な、なに?」
「着替え!置いとくね!」
「うん!ありがとう」
「私も入るから!」
それなら、私はもう出るから、と言おうとした所に実結はお風呂場に入ってきた。
「実結、まだお風呂入ってなかったの?」
「そういう事。たまには、美雨と一緒に入りたいじゃない」
「うん、小さい時はいつも一緒だった」
「こんな風に、湯船に入ってさ」
あの頃と比べると、私達二人は大人になった。
広く感じていた湯船もお風呂場も、今ではとても狭く窮屈だ。
「美雨には、訊きたい事もあるし」
「うん…」
逃げないと決めたばかりなのに、もうココから逃げ出したい気分になる。
でも、今、また逃げてしまっては何も変わらない。
進むと、決めた。
その道が、例え辛く悲しい道であっても。
「兄貴が、馬鹿じゃないのってぐらい浮かれて帰って来た」
「――うん」
うん?
言葉では、肯定の返事をしておきながら、心の中では、疑問形。
なので、何故?と首を傾げてみると、実結は――。
「しかも、あのバカ兄貴!嬉しそうに枕を抱き締めて、部屋中を悶え転がってるのよ!」
「……」
まさか!私には、ちょっと想像出来ないんだけど。
「兎に角、はっきりさせたいから、順序立てで訊くね」
「うん」
「兄貴は、美雨に告白したよね?」
「うん」
「まさかと思うんだけど、美雨はOKしたの?」
「?」
OKの意味が分からない。
何を私はOKするの?
「有り得ないと思うんだけど、付き合ったりするの?」
「えっ?!」
実結の付き合うと言った言葉に、過剰に反応してしまう。
OKって、そういう意味なの?
「そうよね~!美雨には、他に好きな人が居るんだもんね!!」
よく理解出来ていない私をよそに、実結は一人勝手に納得している。
「美雨の兄貴に対する気持ちって、兄妹愛、家族愛だもんね!!!」