表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
mercy rain  作者: 塔子
32/57

【31】

日曜日の朝。



今にも降り出しそうな、そんな梅雨空。



「雨が降らない内に、残りの荷物運んでしまいましょう」



ママが、そう言って私とお父さんに指示を出す。



予定の時間より早く来たお父さんのせいで、引っ越し作業が前倒しに始まってしまった。



(もう少し、ここに居たかったのに…)



そんな事を思ってみても、今更で意味が無いって事ぐらい分かる。



あっという間に、残り全ての荷物を運び出してしまった。



「これ、良かったらお昼にでも食べて」



華江おばさんが、ママに大きな風呂敷包みを渡している。


ママの隣には、私とお父さん。


ちょっぴり涙ぐむママをお父さんは慰めている。


「遠くへ行く訳じゃないし、もう二度と会えない訳じゃないから」


いつでも、会いたい時に会っていいんだよ、とお父さんはママに言葉を掛ける。


華江おばさんも、お父さんの言葉に同意し、また、いつでも来てちょうだい。私も新居に遊びに行こうかな、と。



「これからも、仲良く助け合っていきましょう」



華江おばさんの笑顔につられて、ママが笑む。



「それより、うちの子達何してるのだろう?挨拶ぐらいしに、出て来てもいいのに」



さっきまで引っ越しの手伝いをしてくれていた実結もヒロ兄も、今この場に居ない。



「二人を見てくるよ」



実結とはしばらく学校で会えるけど、もしかしたら、ヒロ兄とは最後になるかもしれない。


ううん、最後にしなくてはいけない。


鹿島家の玄関のドアを開けようとした時、実結の声が聞こえてきた。



「――ここまで来て、逃げる気!!!?」



実結の声が大きかったせいか、私が入ってきたのを誰も気が付いてない様子。



「まさか、このまま一生逃げ続ける気!!!!?」



逃げるって、何から?



「いい加減、腹を括れ!!!!」


「…りだ。やっ…り、む…だ」



ヒロ兄だ。何か言ってるけど、声が小さくて聞き取れない。



「長年の想いを、晴らさないでどうするの!!!!?」


「――それを言うなら、長年の恨み」



長年の想いって?もしかして、本命さんの事?


長年の恨みって?振られ続けてるの?ヒロ兄?


きっと、痺れをきらした実結に後押しされて、本命さんに告白しようとしてるんだ。


振られても振られても、想い続けてるヒロ兄。


本命さんって、どんな人なんだろう?


その人が羨ましい。


ヒロ兄の事、要らないなら私にくださいって、言えたら……。


そんな非現実的な事を考えても、無駄なのに。


切なさで、胸がぎゅっと苦しくて呼吸もままならない。


大きく深呼吸して愛しい人と、大切な親友の名を呼んだ。




「ヒロ兄!実結!そろそろ出発するの!下に降りて来て!!」



ほんの少し驚いた顔の実結と、かなり気まずい顔をしたヒロ兄が部屋の奥から出て来た。










「美雨…」


何か言いたそうに、私の名を口にする実結に、何事も無かったかのように、ただ貼り付けた笑顔を見せた。



決して、兄妹の会話に盗み聞きなんかしてないというのをアピールかでもするように。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ