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mercy rain  作者: 塔子
31/57

【30】

金曜日。


仕事の合間に、ママは転居手続きを終わらせてしまった。


もちろん、婚姻届も。


担任からは、転校先、決まったら早く連絡するようにと言われ、苗字は変えずにこのままで構わないなと確認された。



そっか、名前“高梨”に変わるんだった。










土曜日。


明日は、引っ越しで部屋はダンボールでいっぱいになり、すっかり片付けられている。


お父さんも、ここ数日仕事も休んで片付けを手伝ってくれている。


夕方、あとは食事をしてお風呂に入って、眠るだけ。


3人で近くのお洒落なレストランで夕食を取って、お父さんはママと私を送ってくれた。


じゃあ、また明日と片手を挙げて帰って行くお父さんに、ママは「改めて、娘共々宜しくね」と微笑む。


幸せな二人を間近で見て、素敵だと思う反面、苛立ちを覚えてしまう。そんな自分が醜くて――。


心の振り子が行ったり来たりで、気分が落ち込む。



お風呂を済ませて、髪を乾かしているとママがそっとタオルを取って乾かしてくれる。



「今日は、久々に一緒にママと寝ちゃう?」

「え?」


「ベッドも梱包しちゃったし、出てるのは布団一つだけなのよ」

「………」


「狭いのは仕方ないけど、今日だけ美雨と一緒に寝たいな」

「ママ…」



今夜で、二人きりの生活に終わりを告げる。


幸せになるのに、どうして淋しく感じるのかな?


つらかった事、悲しかった事、泣いた事、たくさんの思い出が浮かんでは消えていく。


きっとママも私と同じ記憶を思い出しているんだと思う。


一つの布団にママとくっ付いて眠る。


小さい頃は、ママと一緒より一人で眠った方が多い。


むしろ、実結やヒロ兄と一緒に眠った事の方が多い。



小さな明かりが、何も無くなった部屋を照らす。



「こうやって、もっと美雨と一緒に居てあげたかった」

「………」


「もっと、甘えさせてあげたかった」

「ママ?」


「あの頃は、生きていく事だけで必死で…」

「………」


「美雨も、辛かったはずなのに」

「私は大丈夫だよ。実結も居たし、ヒロ兄も…」



確かに、パパは居なくなってからは生活も何もかも変わってしまって、淋しかった。


でも、実結にもヒロ兄にも出会えた。


不幸せばかりではない。無限の幸せを私に与えてくれる人達に私は感謝している。



「そう?」



ママが優しく問い掛けてくる。だから、私は「うん」と小さな声だけど強く答える。



「じゃあ、ママからのお願い」

「?」


「ママに我儘言って」

「……また、そんな事言って」


「ママを困らせて」

「……」



“ママを困らせて”って、逆に私を困らせてどうするの?


このままじゃあ、堂々巡りになりそうだったから「そのうちにね」と、返事をして話を終わらせた。


ママ一緒に眠る心地よさから、私はすぐに眠りに付く。


だから、ママが囁いた言葉なんて聞こえるはずもなく――。








「美雨、あなたも幸せになって」








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