【2】
そして、月日は経ち、この春、高校生になった。
勿論、実結と一緒。
実結の部屋で勉強をして、ご飯も一緒に食べて
ママが仕事から帰ってくるまで一緒に過ごす。
ママは、会社勤め。システム関係の仕事。トラブルがあった日は帰って来れない日も…。
実結のお母さんは美容師。
そして、ヒロ兄も美容師になったばかり。
学校からの帰り道。
「帰りに、お店に寄ってって、お母さんに言われてるんだけど」
「え?あ…うん」
学校帰りに実結のお母さんの美容室に寄る事もある訳で…。
でも、お店に行けば、ヒロ兄も居る訳で…。
今朝の実結の話が、今もなお、グルグル頭の中を回っている。
ほ、本命って…誰だろう?
きっと、美人で、頭も良くて、スタイルも良くて…。
並んで歩いても、お似合いの人なんだろうなぁ。
でも…、どうして、その人と付き合わないんだろう?
別の人と、付き合ったりするなんて…。
疑問はどんどん膨らんで、想像は際限無く大きくなっていく。
「どうかした?美雨」
「え?ううん。何も無いよ…」
無理に笑う。
本命が誰であれ、今、ヒロ兄には新しい彼女が居る。
私が入り込む余地なんて、最初から何処にも無い。
そんな事は分かってる。
「わ、私、お店の外で待ってるから」
「?…入らないの?」
「ほ、ほら、お仕事の邪魔したらいけないし」
ヒロ兄には会いたいけど、今は、今だけは会わない方が…。
「何、言ってんのよ、美雨!」
手を引っ張られてしまう。実結って、いつも強引だよ!
もう、諦めよう!
今度こそ、忘れよう!
いい加減、この片想いに終わりを告げよう!!
たかが、実結のお母さんのお店に入るだけなのに
今まで何度も入ってるのに
こんなに気合を入れ、覚悟を決めて入った事なんて無かった。
***
side:実結
その日の美雨は、朝からどこか変だった。
いつもなら、お母さんのお店に寄るって言えば喜んで付いてくるのに…。
「邪魔になるから」
なんて言うの、初めて聞いた。
私、何かした?何か言った?しかも、今日はいつもより早目に家に帰っちゃうし…。
階が違うだけで、同じマンションなんだから、普段は遅くまで一緒に居るのに…。
「ただいま」
あ、兄貴が帰って来た。
「お帰り、兄貴」
「実結、おまえだけ?美雨ちゃんは?」
「美雨は、か・え・り・ま・し・た」
「………」
実は、ウチの兄貴は美雨の事が好きだ。
なのに、他の女と平気で付き合ったりする。
全く持って、悪い男だ!
「どうせ、実の妹より、美雨の方が可愛いもんね〜!」
「あ、あのな…」
「でもね、好きでもない女と付き合えるような男を、美雨が振り向く訳無いでしょう!!」
「………」
いったい、何を考えているのか、このバカ兄貴!
本命が居るのに、他の女と付き合えるかね?
兄貴の本命とは、当然、私の親友、藤方美雨。
妹と同じ年の女の子に恋するなんて、どういう事っ?
しかも、8歳差もあるというのに!
ありえないわ!!
あんな可愛くて、素直な美雨を悪い男から守れるのは私だけ!
全力で、守ってみせるんだから!!
***
side:大樹
妹、実結に悪い男と言われても、何も言えない。
事実本当の事だから。
言い寄ってくる女の子と簡単に付き合い、別れようと切り出されれば、即別れる事が出来る。
俺は、そういう男。
でも、それは全て――美雨。
初めて会った時は、妹が一人増えただけだと思った。
日に日に信用され信頼され安心されるようになり、不思議とそれが嬉しかった。
絶対的な心の繋がり。
想われてるのが心地良くて、ずっとこのままで居たいと思うようになっていく。
だけど、このままではいられない。
幼い日の思い出や年の差。さすがに8歳も年下の女の子と恋愛なんて不可能だ。
待つと言っても、16歳になったばかりの高校1年生。
少しでも忘れようと諦めようと、他の女の子と付き合ってみたりするけど、長くは続かない。
母子家庭という事で、家の事、妹達の面倒を優先する俺を最初は「大変だね」なんて言う彼女も、いつしか自分が後回しにされている事に我慢が出来なくなるんだろう。
最後には「やっぱり、無理みたい」と言われて別れてしまう。
結局、美雨ちゃんを忘れるなんて出来なくて、こんな事ばかり繰り返してしまう。
実結に何を言われても、言われっ放し。
毎日、歯がゆい思いをする。
きっと、美雨ちゃんには俺なんかより似合いの彼氏が出来るんだろう。
そう思い続けてきてるのに、どうしてこの思いに終わりが来ないのだろう……。