【26】
午後の日差しの中、一人学校の正門を通り過ぎる。
昨日の事、特に問題が有ったようでもなく、ほっとする反面、担任は何を言いたかったのか、という事を思いながら歩く。
確か…、ママが…、電話で…?
自分の事ばかり考えていたから、担任の話なんてこれっぽっちも聞いていない。
後でママに話を聞けば分かるかな?
案外、聞かない方がいいかもね。
今、この時は、この程度にしか考えていなかった。
何となく、足の向くのは華江おばさんが経営する美容院。
勿論、ヒロ兄も一緒に働いている訳で…。
さりげなく外から中の様子を見入る。
こんな昼間から、制服を着た高校生がウロウロしてるのは不自然なので、立ち止まる事はせず歩くスピードをほんの僅かだけ緩めてヒロ兄の姿を探す。
――い、居た!!
モップを持って床を掃除しているヒロ兄。
思わず目を細め、小さな吐息が漏れる。
ドキドキする胸の鼓動を抑えるように、両手で鞄を抱き締める。
普段と変わらず、いつもと同じ風景だ。
華江おばさんの下で一人前の美容師になる為に、一生懸命頑張ってる姿を見るのが一番好き。
勿論、ご飯を作ってるヒロ兄も、テレビを観て笑ってるヒロ兄も――。
誰よりも、好き。
でも、もう決めた。もう、諦めるって。
告白しようって決心したけど、あっさり揺らいでしまう自分にも、うんざりだ。
このまま、消えてしまいたい。
結局、家に帰っても何もする事が無く、一応風邪を引いている訳だし、病み上がりだし、眠れないけどベッド中でぼんやり過ごす。
「美雨、起きてる?」
「…ママ!」
「具合は、どう?」と尋ねられて、「…うん、まぁまぁかな」と曖昧に答える。
ママが言うには、学校から早退したと会社に電話連絡が入り、仕事を切り上げていつもより早く帰ってきたと話してくれる。
「熱は、無いの?」
「…うん」
「それとも、何か有った?」
「?」
「逆に、何も無かった?」
「っ?!」
「…それで、いいの?」
「………」
一言も喋ってないのに、ママは「ふ~ん、そうなの」と一人勝手に納得している。
呆れているようで、怒っているようで。
「美雨って、普段はしっかりしてるのに、自分の事になるとダメよね~」
ママの言う事は、もっともで。いつも自分の事は後回しにしがち。
それは、性分なので仕方ないじゃない!
「そんな美雨だから、ついママも頼ってしまうと言うか、甘えてしまうのよね~」
小さな頃から、一人で出来る事は全て自分でしてきた。
我慢出来る事は、誰にも何も言わずやり過ごした。
「美雨は、もっと我儘になってもいいと思う。ママに対しても、言いたい事が有るなら言ってもいいのよ」