【24】
ヒロ兄に会えた。
少しだけだけど話も出来た。家にも戻ってくれた。
ホっとした気持ちと共に、あまりにも強い眠気に襲われ、何とか着替えだけしてベッドに潜る。
もう今は何も考える事もせず、ただ眠りに身を任せる。
明日になれば、ちゃんとヒロ兄に会って、今までと変わらす実結と3人で過ごせばいい。
引越しするまで、転校するまで、楽しい思い出をいっぱい作ろう。
――あれほど、決意したのに…。
――ママの応援も有ったのに…。
やっぱり、私は私。
そう簡単には、変われない。
結局、平穏がいい。私のせいで周りのみんなを巻き込みたくない。
私が、ほんの少し頑張って諦めれば良いだけの事。
今までと同じ。何も変わらない。
額に心地良い冷たさを感じて、ゆっくりと目を開ける。
「…ママ」
「気分は、どう?」
そんなママの言葉に、思わず“どうして?”と思う。
あ、そうか、私、風邪を引いて学校休んだ事になってるんだ、という事を思い出す。
「…ママ、私」
「鼻声ね。何か食べた?」
ゆっくりと首を振ると「分かったわ」と言って、ママはキッチンに向かう。
今朝は、インスタントのカップスープだけ。お昼は何も食べずに寝てしまった。
机の上の時計を見ると、3時半を過ぎた頃。学校は6時限目の授業が終わった頃。
お粥と薬と体温計が載ったお盆を持って現れたママは「昨日、やっぱり一緒に帰れば良かったわね」と申し訳なさそうに部屋に入ってきた。
体温を測ると37.6℃。
少し頭と喉が痛いのと、だるい感じがする。
自業自得というのかな、雨に濡れて、そのまま眠れずに起きていたのだから。
しかも、風邪だと嘘を付いたのが、本当になって……。
「…ママ、仕事は?」
「今日は、早退しちゃった」
「ごめん、なさい…」
「ふふ、いいのよ、今まで母親らしい事してこなかったんだもの。私が早退しないと、和也さんが早退するって言うから…。さすがに、それはね」
食事をした後、薬を飲んで、もう一度眠りに付く。
夕方、実結が様子を見に来てくれた。
「今朝は、ありがとう」
先にお礼を言うと「本当に風邪ひくって、美雨って凄い」」と感心される。
「風邪もそうだけど、怪我した所はどう?」
「う~ん、平気。普通に、擦り傷だもん」
実結は「それより、はい」と言ってノートを渡してくれる。
「きちんと授業も聞いて、ノートも取ったから」
「実結~、ありがとう!!」
「久々に真剣に授業聞いたから、疲れたわよ~」
「私が言うのもなんだけど、普段からちゃんと勉強しておいた方がいいよ」
「ま、コレを機に頑張ってみますか」
「期末試験もあるからね。追試になって夏休み返上は嫌でしょう?」
実結との和やかな時間。
あと何日?あと何回?こんな風に実結との時間を過ごせる?
実結は、私の体調を気遣って早々に帰り支度をする。
「ちゃんと休んでないと、熱も下がらないぞ」
「大丈夫、明日には治ってるよ。ちょっと微熱が出ただけ」
「美雨は頑張るのもいいけど、我慢はダメだからね!!」
「いつも気に掛けてくれて、ありがとう。実結」
「じゃあ、明日」
「うん、明日ね」