表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
mercy rain  作者: 塔子
22/57

【21】

「あ、あの…」



声を掛けると、目の前座るマリエさんは瞳をキラキラさせて「な~に~?」と返してくれる。


尋ねようか、どうしようか、と言葉より目だけが先に行動に移してしまった。


そんな小さな動きにも気付いてくれたマリエさんは「あぁ」と納得してくれたようで……。



「気になるよね?さっきからドタドタ煩いし」

「………」



そうなのだ。私の視線のドアの奥では、言い争うような声と――よく分からないけど男の人が居るのは確か。



――あの部屋の中に、ヒロ兄は居る。



「まぁ、大丈夫よ。喧嘩してる訳じゃないから。落ち着いたらちゃんと出てくるから」

「はぁ、はい……」



あまりにも優雅にマリエさんがアイスティーを飲んでいるから、私一人がジタバタしてもどうすることも出来ないと思う。


しかも、私はココまで来てしまったのだから…。


知らず知らず、ぎゅーっとママのスカートの裾を握ってしまう。




しばらくして、例の部屋の中からの音と喚く声は静かになり、カチャとドアが開きマリエさんと同じ髪色の男の人が出てきた。



「ふー!やっと、大人しくなった」



そう言って、その表情はどこか達成感が滲み出ている。



「えーっと“みほ”ちゃんだよね?あれ違ったかな?――“みよ”ちゃん?」

「違うわよ!ナオト!“みう”ちゃんよ!!」


あれ?そうだっけ?と、ナオトと呼ばれた人は、マリエさんに「お、俺にもビール!」と言う。



「なにバカな事、言ってるの!コレはアイスティー!」



朝から飲むわけないでしょう!と席を立ち、ナオトさんの分のアイスティーをグラスに淹れて手渡している。




一気にアイスティーを飲み干したナオトさんは、もう一度、ふーっと息を吐いて私の正面に座った。



「アレ、逃げないようにしておいたから」

「……?」


「とにかく、持って帰ってくれよ」

「………」



アレって何?


持って帰ってくれよ。って、ヒロ兄の事?


理解不可能な事ばかり言われて……、でもあの部屋の中にはヒロ兄は居るはず。

いつの間にか出かける準備が整ったマリエさんが、ナオトさんに声を掛けた。


2人して玄関先まで行き、私の方に振り返る。



「じゃあ、後は宜しくね。みうちゃん」

「まぁ、頼むわな。大樹の事」



今ここで、ヒロ兄の名前を聞いて、本当にここに居るんだと再確認する。



私は、ゆっくりと一歩ずつその部屋に向かって足を進める。


それはまるで、ギコギコと音の鳴る燃料が残りわずかのロボットのよう。


ゴクっと喉を鳴らし、私は部屋の中へ入って行く。








散らかったままの部屋。


床には、読み掛けのファッション雑誌やヘアメイクの本に、脱ぎっ放しの洋服。


カーテンは淡い緑色。近くには同じ緑色のセミダブルのベッド。






「――ヒロ兄…」

「…美雨ちゃん」






久し振りに聞くヒロ兄の声が、私の名を呼んでくれる。


なのに、姿は見えない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ