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mercy rain  作者: 塔子
21/57

【20】

実結は「本当は、美雨と行きたいなぁ」と言いつつも、学校へ向かった。


私は、嘘を付いて学校を休んでしまった。


さすがに、普段の格好で出かけて誰かに見られるとマズい。


ママのクローゼットから、私でも着れる服を探し出し、今日だけ借りるねと着替え始める。


鏡にほんの少しだけ大人っぽくなった自分自身を映し、伊達メガネに帽子を被る。


メモに書かれてる住所をもう一度確認して、私は辺りを伺いながら早足でヒロ兄も下へ向かった――。









3階建てのアパートの前に立つ。


ここの最上階の一番端が、目的地。


カツンカツンと靴音を鳴らし、階段を上がって行く。


部屋番号と名前を確認し、呼び鈴を鳴らす。


………。


返事も無ければ、部屋の中からは音もしない。


もしかして、誰も居ないの?


不思議と誰も居ないと思うと、さっきまで少しも緊張してなかったのが、今になってドクンドクンと心臓が鳴っているのが聞こえてくる。


震える手で2度目の呼び鈴を鳴らそうとした時、ドアが音も無くゆっくりと開く。



「あ、あの…」



中から見えたのは、金色に近い長い髪。



「……誰?…えーっと、どちらさま?」



俯いていた顔を上げたにも関わらず、金色の髪で顔の見えない女の人。



――お、女の人?!ヒロ兄って、女の人の所でお世話になってたの?



これ以上ないっていうほど、心臓の音は激しくなる。


指先は冷たく、呼吸を忘れてただ呆然と立ち尽くす。



「…もしかして、みくちゃん?――あれ?みおちゃんだったかな~?」

「あ!わ、私“みう”です」



咄嗟に間違いを訂正してしまう。でも、本当の言いたいのはそんな事ではなくて、話を聞いて貰いたくて、言葉をかけようとすると「ちょっと、待ってて」と言われバタンとドアが閉まってしまった。



まさか、あの女の人が新しいヒロ兄の彼女なの?


彼女と一緒に暮らしているから、戻ってこなかったの?


あの夜、逃げたのも私に話すのが面倒だったから?



マイナス思考が頭の中を駆け巡る。




バタバタ、ドタドタと部屋の中から聞こえる騒音。


自分の事だけで精一杯の今の美雨には、聞こえてこない。


だから、中で何が起きてるのかも感じる事も想像する事も出来ない。





「お待たせ!“みう”ちゃん」

「……っ?!」




同じなのは、金色の髪のみ。


長い髪はアップして、化粧も完璧で、服装もさっきと打って変わって流行先取ってます!って感じ。


同一人物とは、言い難いほど――キレイなお姉さんに変身した。



「遠慮しないで、入って」

「…は、はい。お邪魔します」



部屋は小さいながらも、綺麗に片付けられていて……。



「散らかっててごめんね。急いで片付けたから」

「いえ、お気遣い無く…」



キレイなお姉さんは、どういう訳かニコニコしてて、とても友好的。



「あ、私の名前は、マリエ」



宜しくね“みうちゃん”と言われ、私は軽くお辞儀をする。


あの雨の日に、ヒロ兄と別れた元彼女とは何もかも全然違う。


嫌味を言われたり、実結の言う“修羅場”とかになるのかなと、ビクビクしてたのが嘘のよう。


「そこに座って」と言われ、アイスティーまで淹れてくれたりなんて――。





「あ、あの…」






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