【20】
実結は「本当は、美雨と行きたいなぁ」と言いつつも、学校へ向かった。
私は、嘘を付いて学校を休んでしまった。
さすがに、普段の格好で出かけて誰かに見られるとマズい。
ママのクローゼットから、私でも着れる服を探し出し、今日だけ借りるねと着替え始める。
鏡にほんの少しだけ大人っぽくなった自分自身を映し、伊達メガネに帽子を被る。
メモに書かれてる住所をもう一度確認して、私は辺りを伺いながら早足でヒロ兄も下へ向かった――。
3階建てのアパートの前に立つ。
ここの最上階の一番端が、目的地。
カツンカツンと靴音を鳴らし、階段を上がって行く。
部屋番号と名前を確認し、呼び鈴を鳴らす。
………。
返事も無ければ、部屋の中からは音もしない。
もしかして、誰も居ないの?
不思議と誰も居ないと思うと、さっきまで少しも緊張してなかったのが、今になってドクンドクンと心臓が鳴っているのが聞こえてくる。
震える手で2度目の呼び鈴を鳴らそうとした時、ドアが音も無くゆっくりと開く。
「あ、あの…」
中から見えたのは、金色に近い長い髪。
「……誰?…えーっと、どちらさま?」
俯いていた顔を上げたにも関わらず、金色の髪で顔の見えない女の人。
――お、女の人?!ヒロ兄って、女の人の所でお世話になってたの?
これ以上ないっていうほど、心臓の音は激しくなる。
指先は冷たく、呼吸を忘れてただ呆然と立ち尽くす。
「…もしかして、みくちゃん?――あれ?みおちゃんだったかな~?」
「あ!わ、私“みう”です」
咄嗟に間違いを訂正してしまう。でも、本当の言いたいのはそんな事ではなくて、話を聞いて貰いたくて、言葉をかけようとすると「ちょっと、待ってて」と言われバタンとドアが閉まってしまった。
まさか、あの女の人が新しいヒロ兄の彼女なの?
彼女と一緒に暮らしているから、戻ってこなかったの?
あの夜、逃げたのも私に話すのが面倒だったから?
マイナス思考が頭の中を駆け巡る。
バタバタ、ドタドタと部屋の中から聞こえる騒音。
自分の事だけで精一杯の今の美雨には、聞こえてこない。
だから、中で何が起きてるのかも感じる事も想像する事も出来ない。
「お待たせ!“みう”ちゃん」
「……っ?!」
同じなのは、金色の髪のみ。
長い髪はアップして、化粧も完璧で、服装もさっきと打って変わって流行先取ってます!って感じ。
同一人物とは、言い難いほど――キレイなお姉さんに変身した。
「遠慮しないで、入って」
「…は、はい。お邪魔します」
部屋は小さいながらも、綺麗に片付けられていて……。
「散らかっててごめんね。急いで片付けたから」
「いえ、お気遣い無く…」
キレイなお姉さんは、どういう訳かニコニコしてて、とても友好的。
「あ、私の名前は、マリエ」
宜しくね“みうちゃん”と言われ、私は軽くお辞儀をする。
あの雨の日に、ヒロ兄と別れた元彼女とは何もかも全然違う。
嫌味を言われたり、実結の言う“修羅場”とかになるのかなと、ビクビクしてたのが嘘のよう。
「そこに座って」と言われ、アイスティーまで淹れてくれたりなんて――。
「あ、あの…」




