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mercy rain  作者: 塔子
20/57

【19】

昨夜、雨に濡れて…――という事があったおかげで、ママは私の仮病をあっさり信じてくれた。


そっと小さく息を吐く。でも、まだ実結は居る。


長い付き合いだからこそ、性格もよく理解している。


こうなった実結は、自分が納得しない限り、梃子でも動かない。



「何があったか、話してくれるよね」

「…実結」



私も実結もお互いの家を行き来してるから、キッチンも何が何処にあるのか知り尽くしている。


実結は、キッチンに立ってお湯を沸かしている。


朝、食べてない私には、インスタントのポタージュスープを、実結は自分にコーヒーを淹れ、テーブルにコトっと置いてくれる。


それが、合図――さぁ、話なさい、と実結全身で言っている。


嘘は付きたくない、でも本当の事も言いたくない。


出来る範囲で、言葉を選びながら話そうと心に決める。



「昨日の夜、…ヒロ兄に会ったの」



実結は、驚いた顔をして何かい言いたそうな素振りを見せたけど、話を遮るのは得策ではないと思ったのか、ただ黙って続きを待っている。



「会ったのに…、久しぶりに会ったのに、逃げたの」

「あ、会っただと~~っ?!」



驚きの声を上げて、実結は「ボケ兄貴め!」とこめかみがピクっと引きつらせている。



「だから、私、追いかけたの――でも、追いつけなくて――」

「ご、ごめんっ!美雨!!」



最後まで言わなくても、実結は分かったんだろう。頭を下げて、真剣に謝るから何も言えない。



「実結は、謝る必要は無いよ」

「私が“禁止令”なんか出したから…」



例え“禁止令”のせいであっても、ヒロ兄は実結の事を考えて動いた結果だと思う。


それほどまでに、兄妹の関係は強いのだと。


きっと2人にしか分からない、何かがあっての“禁止令”。



「ううん、実結はヒロ兄には優しいし、ヒロ兄も実結には優しいから」

「…はぁ?!何言ってるの!!私が兄貴に優しいなんて有り得ない!!」



嫌そうな顔をして強く否定してたかと思えば、瞬時に心配そうな顔をして「“美雨接近接触禁止令”は美雨の為なんだよ!」と言われてしまう。


よく理解出来てない私は、頭の中は「?」でいっぱいだ。



「とにかく、禁止令は撤回するよ」


また、偶然会って、追いかけっこになって、さらに怪我でもしたら大変だし――実結はそう言って、電話の傍にあるメモに何やら書き出した。



「美雨、これ、渡しておく」



差し出されたメモには、住所と名前、そして電話番号が書いてあった。



「今、兄貴がお世話になってる友達の名前と連絡先」

「!」


「月曜日だし、仕事も無いし、今日の兄貴は油断してると思う」

「………」



真面目な顔をして“油断してる”って。


気を許しているヒロ兄を想像してしまうと可笑しい。



「まさか、美雨にこんな怪我をさせてしまうなんて――本当に、ごめん」



私も、心の中で「ごめんね」と謝る。


実結には悪いけど、結果的にはこれで、ヒロ兄に会える。


もしまた、逃げ出そうとすれば、禁止令は無くなったと言えばいい。


これからすぐに、会えるんだと思うと心が踊る。


実結に見えないように、メモを持つ手に力を込めた。














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