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mercy rain  作者: 塔子
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【1】


今日も一日、何も変わらない日だと思っていた。


いつものように、親友の実結と高校へ向かう通学路。


いつものように、楽しい話をして笑い合う。


それなのに、突然、実結がムっとした顔で話しだす。


「美雨~、兄貴にまた新しい彼女が出来たんだよ~っ」

「…え?」


新しい彼女…?!


心の奥がズキンと痛む。


これで、わたしは何度目の失恋?


もう、悲しみも通り越して、涙も出て来ない。


「ヒロ兄って、モテるから…」


そう言って、少し苦笑い。ちなみに私は実結のお兄さんの事を昔から“ヒロ兄”って呼んでいる。


「あのバカ兄貴、どうせまたすぐに別れるわよっ!」


実結の言う通り、ヒロ兄は彼女が出来ても長く続く事はない。数ヶ月も経てば別れる事が多い。



私は小さい頃からヒロ兄の事が好き。



ヒロ兄に彼女が出来たと知れば、心は沈み


別れたと聞かされれば、心は浮いてくる。


単純だと自覚してるけど、こればかりはどうする事も出来ない。


でも、今回は違った…。


「本命が居るって言うのに、どうしてウチの兄貴は――」


え?――ほ、本命っ?!


実結がぶつぶつと、一人ごちに言うのを聞き逃さなかった。


今の今まで、本命が居るなんて知らなかった!




今度こそ、完全に失恋決定なのかもしれない――。










あの日、雨が降っていた。


しとしとと小雨が降る中、パパは入院先の病院で亡くなった。


私はまだ幼くて、その日の事をよく憶えていない。


ただ、雨の降る音だけが、記憶の中に残っている。


そして、ママと私の二人だけになってしまった。






――母子家庭として新たな生活が始まった。



二人で住むにはちょうど良い大きさのアパートに移り住んだ。


ママは仕事を始め、私も保育所に通うようになった。


そんな私に初めて友達が出来た。


名前は、鹿島実結。


そして、私の名前は藤方美雨。


みゆとみう…。


同じ年齢と、何となく名の響きが似てるという事もあり、私達はあっという間に大の仲良しになり、今でも親友同士。


しかも、同じアパートに住み、偶然にも同じ母子家庭。


ただ、違うのは実結には、鹿島大樹という8歳年上の兄が居た事だった。








実結と私の母親達もすっかり仲良くなり、今では家族ぐるみのお付き合い。


助け合って頑張ろう!というのが母親達の合言葉。


そういう事もあり、保育所のお迎えはヒロ兄の役目。


当時、高校生だったヒロ兄は学校帰りに必ず時間通りに迎えに来てくれた。


――嬉しかった。


本当にお兄さんが出来たみたいで。


家に帰れば、ご飯の用意もしてくれるし、遊んでもくれる。


3人一緒にお風呂に入って、


朝、目が覚めたら3人並んで眠っていた事も…。


時々、思い出したかのように淋しさが溢れて来て、どうしようもなく泣いてしまう時も――いつも側に居てくれた。


何より、小学3年生の時の事、


帰ろうにも帰れない。


急に雨が降り出してきたから…。


「朝、晴れてたのにね…」

「うん…」


私も実結も傘なんて持って来なかった。


他の子達は、迎えに来てくれる家族が居る。


少しずつ、遣る瀬無さが込み上げてくる。


「美雨、行こう!」

「…?」


雨の中を行こうって、言うの?

にこっと笑う実結の視線の先には――


あ…!


「さぁ、帰ろうか」


ピンクの傘を2本持ったヒロ兄が迎えに来てくれた。


この時、思った。


嫌いだった雨の日が、とても嬉しい日に変わった。


この人が居れば、それだけで心が温かくなっていくの感じた――。





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