【18】
side:実結
月曜日の朝。
いつもなら、美雨が迎えに来てくれて2人で一緒に学校へ向かう。
でも今日は、私だって早起きして余裕で学校に行く事が出来るというのを見せる為、いつもより10分早く、私の方から美雨を向かえ行く。
玄関で再確認。
ブラウスに皺無し!
髪もクルンと可愛く完璧!
お弁当も持った!
いざ!美雨の家へ!
――と言っても一つ階下に降りるだけなんだけどね。
美雨の玄関先でチャイムを鳴らす。
カチャリと鍵の外す音。ゆっくりと開くドア。
現れたのは俯いたまま何も言わない美雨。
「美雨~、おは…、っ!!――な、何かあったのっ?!」
乾いてしまっている泥汚れが付いたままの服に、ショートヘアの髪はボサボサ。
何より、腕から膝から滲んでいた血は、すっかりこびり付いていて赤黒くなっている。
「美雨っ!!」
「………」
張り詰めた声を上げても、何の反応もしない美雨の痛々しい腕を優しく掴み、強引にお風呂場へ連れて行く。
「シャワー浴びてて!急いで救急箱、取って来るから!!」
「………」
取り合えず、脱衣所に押し込んで自分の家に駆ける。
お母さんが「忘れ物~?」なんて暢気な声が聞こえてくるけど相手をしている時間も無い。
適当に「ちょっとね」と返事をして救急箱を手にして、美雨の元へ。
ちょうど美雨の部屋に戻ると、お風呂から出て来た所だった。
「先に、髪の毛を乾かそうね」
「………」
「傷口、しっかり洗った?」
「……み、実結…」
か細い声で名前を呼ばれ、わざと明るく「な~にぃ?」と返事をする。
美雨の髪は短くなっても、相変わらず艶のあるストレートの髪。
ブラシでゆっくり梳いてあげる。
「実結」
「んー?」
救急箱の中から、消毒薬と脱脂綿を取り出し、「染みるぞ~」と悪戯っぽく笑って見せて傷口を消毒する。
ほんの少し顔を歪めて、痛みに耐える美雨。
ささっと、絆創膏を張ってあげると、ほっと一息ついて「ありがと…」と美雨の小さな声が返ってくる。
「実結、そろそろ学校に行かないと遅刻しちゃう」
救急箱に片付けている私に、心配げな表情をして美雨は言うけど――。
「何が合ったか、聞くまでは学校には行かないよ」
美雨と向き合う。
目は赤く腫れていて、泣いていたのが嫌でも分かる。
部屋の中の様子を見れば、昨夜おばさんは一緒じゃないのも分かる。
「でも…、実結…」
「私を遅刻させたくないなら、早く話した方がいいんじゃない?」
「………」
「取り合えず、衣里おばさんに連絡入れるよ。そんな顔して学校には、行けないからね」
そう言って、衣里おばさんの携帯に電話を掛ける。
固定電話から掛けたから、おばさんはてっきり美雨だと思ったようで、びっくりした声色で「何があったの?」と尋ねてくる。
「美雨、風邪を引いているみたいで…」
すっと、受話器を美雨に渡す。
衣里おばさんと話す美雨は、ただ“うん”と“分かった”とその言葉を繰り返すだけで、簡単な会話だけをして受話器を置く。
「おばさん、何て?」
「学校には、風邪で休むと、連絡してくれるって」