【15】
お父さんの車でやって来たのは、私達3人が新しく生活する街。
目の前にそびえるのは、高級マンション。
ここがお父さんの住んでいる所。
一体、何階まであるの?と思わず数えたくなるけど、途中で数えるのが嫌になるほど高い建築物。
お父さんは、マンションのエントランスに入り、セキュリティを解除する。
「ここの、最上階なんだよ」
「!」
最上階という言葉に、かなり分かり易くビクっと反応してしまった。
「もしかして、高い所、嫌い?」
「平気です」
エレベーターに乗り込み、慣れた様子で25とあるボタンを押すのはママ。
もう何度もここへ足を運んでいるのは知っている。
エレベーターが上昇するにつれ、母娘ともワクワクするのが止められない。
高所恐怖症ではなく、まさにその逆。
私もママも、高い所が大好き。
今まで、一人で暮らして居たなんて信じられないぐらい広い部屋。
洗練されたお洒落なモデルルームのよう。
でも、既にところどころママの物が置いてあったりして、戸惑う事無くここで生活が始めれそう。
リビング、キッチン、主寝室、バスルームやトイレと順番に見て回る。
「ここが、美雨ちゃんの部屋だよ」
そこは、何も置いてない部屋。唯一は有るのは淡いピンク色のカーテンだけ。
「広い…、でも広過ぎだよ」
ピカピカのフローリング。スリッパを履いているとは言え、入室するのにちょっと躊躇してしまいそう。
「そうかな?でも、机やベッドを置いたら、それほどでもないよ」
部屋を案内してくれたお父さん。
ママはキッチンの方へ行ってしまっている。
他の部屋も見て回る。ちょっとしたお宅訪問気分。
凄過ぎる、5LDKなんて!
「ここは、ペットも飼えるから」
「!」
また、何とも分かり易く反応してしまう。
さすがに、お父さんも分かったらしく「引越しして落ち着いたらペットショップに行こう」と柔らかな笑みを浮かべる。
「世話なんて出来るの?美雨」
ママはトレイに紅茶セットを載せて、リビングにやって来た。
ソファに座って、ゆっくりと3人で紅茶をいただく。
「う~ん、仔犬も可愛いと思うけど、まず先に妹とか弟が欲しいかな~」
ぶっ!
真っ赤な顔をして、紅茶を噴出しそうになるお父さん。
がちゃ!
カップを割れそうなほどの勢いで、ソーサーの上に置くママ。
「からかわないの!美雨!」
「別にそういう訳じゃ……」
「俺、頑張って、産むよ!!」
「「えっ??」」
私とママの声が重なった。勿論、視線の向く先も…。
両拳にグっと力を込め、気合の入ったお父さん。
“頑張る”のは、まぁ分かるけど…。
“産む”のは……?
「あ、いや、あの、こ、子育て!頑張るのは、子育ての方だから!!」
必死になって言い訳をするお父さんが可笑しくて、ママと一緒に笑い合う。
そんなに笑わなくても…と照れて、かなり恥ずかしそうにお父さんも笑う。
これからの新しい3人の生活が、こんな風に笑い声が絶えない毎日が続けばいい。
きっと、近い将来もう一人家族が増えるのを思い浮かべながらー―。