【14】
昨夜、降っていた雨が嘘のように上っていた。
雲間から望む太陽の眩しい日差しが、雨に濡れた全ての物を照らし煌かせている。
今日は、そんな清清しい朝。
日曜の朝、久し振りにママと一緒に遅めの朝ご飯を食べた後、出掛ける準備をする。
「美雨、10時になったら和也さんが迎えに来るからね」
「はーい」
のんびりもしていられない。時計を見ると丁度9時半。
ママと二人して着替えを始める。
“和也さん”というのは、高梨さんの事。
いつの間にかママは“和也さん”と呼んでいる。
そういう私は未だに“高梨さん”だ。そろそろ私も――変わらなければと思う。
いろんな意味で…――。
私から見る高梨さんは、おっとりした優しそうな男の人。
眼鏡がとても似合う、柔らかな笑みを見せる俳優さんみたい。
なのに、乗り付けてきた車は、黒のスポーツカータイプ。
イメージと合わない。
「ご、ごめんね、美雨ちゃん。やっぱりレンタカーにすれば良かったかな」
「……いえ」
申し訳なさそうに後頭部に手を当てて、謝ってくれる高梨さん。
ちょっと、絶句気味な私。
だって、後部座席があるにはあるんだけど、おまけ程度で普通に座れないんですけど。
「別に良いわね、美雨」
「……うん」
私にしか分からないママの圧力に、否定の言葉は出て来ない、でも――。
「私、こういう車、大好き!だから、次は助手席に座らせてね」
と言うと「え?」と、ちょっとびっくりする高梨さん。
「私を、ドライブに連れてってという意味です」
私の言いたい事を理解した高梨さんは、目じりを下げて照れまくり。
「あ~~!美雨だけズルい!和也さん!勿論、私も連れてって!」
ママと二人で、まるで友達のように、姉妹のようにはしゃぐ。
「こんな素敵な奥さんと、可愛い娘に言われるなんて嬉しいというか、幸せ」
二人だったのが三人になって、きっとこんな事がこれから日常になって幸せが積み重なって行けば良いと思う。
「仕方ないな、ママは!最初はママに譲ってあげるから、ママの次にお出掛けようね。お父さん」
その瞬間、ママと高梨さん私を見つめてくる。
まだ、きちんと入籍はまだって聞いているけど、もう私達は親子で家族だから。
「た、高梨さんの事“お父さん”って呼ぶのはダメ?」
戸惑いがちに尋ねると。
「だ、ダメじゃないよ!!」
と、お父さんが必死になって答えるから、それが可笑しくてまた笑い合う。
区別を付けるのは、良くないかもしれないけど、記憶はおぼろげで曖昧だけど、パパの事ずっと忘れたくない。
私の中で、高梨さんはお父さん。
たった一人、私の父親は、パパ。
どんなに晴れの日が続いても、雨の降る日の事もいつも大事にしたいの。
それが、とても悲しく辛い想い出でも……。