【13】
テーブルの上には炊き立てホカホカのご飯。
ハンバーグをお皿に盛り付け、夕ご飯の準備をする。
実結は、サラダとお鍋いっぱいに作ったトン汁をお椀によそっている。
華江おばさんとヒロ兄は、まだ仕事だから先に二人で済ませようという話になった。
テレビを観ながら食事をして、片付けた後もテレビを観ながら他愛も無い話で盛り上がる。
でも、盛り上がっているのは実結だけで、私の頭の中ではヒロ兄が帰って来たその瞬間からのやり取りを何度も何度もシミュレーションし続けている。
そして、耳に一番響くのは時計の針が動く音。
知らず知らず、手に汗握る。
「あ、帰って来たみたい」
「!」
先に立って、玄関まで出向かいに行く実結の後を付いて行く。
心臓がバクバクと、今にもめまいを起こして倒れてしまいそうなのを必死に気合だけで立つ。
「お母さん、お帰り~!今日は美雨がハンバーグ作ってくれたよ~」
「お帰りなさい、おばさん…」
華江おばさんは「美雨ちゃんのハンバーグ、最高に美味しそうなのよね~」と実結と同じセリフを言いながらキッチンへと入っていく。
お腹ペコペコだから、早速頂くわね~っと言って、その横で実結は「トン汁も食べてよ!」と、おばさんにお茶を淹れてあげている。
……あれ?
ヒロ兄は?
華江おばさんだけ?
「お、おばさん!ヒロ兄は?一緒じゃなかったの?」
おばさんに投げかけた言葉なのに、答えてくれたのは実結で――。
「兄貴、今日も友達の所へ行くって言ってたから、帰って来ないよ」
「!」
帰って来ないって、どういう事?
じゃあ、ここに居てもヒロ兄には会えないって事?
友達の所?
帰って来ない?
じゃあ、ここに居ても、意味がない…。
「わ…、私…、そろそろ帰らなきゃ…」
茫然自失の中、平静を装う。
実結にも華江おばさんにも気付かれず、自分の部屋に戻る事が出来た。
ヒロ兄、いつになったら会えるの?
どこに、居るの?
もしかして、本当にこのまま会わずに、サヨナラっていう事になるの?
ヒロ兄に、本命が居たって構わない。
もう気持ちは止められない所まで、来てしまっている。
ただ、伝えたいだけ。
最後に「ありがとう」という言葉と。
心から「好き」という想いを。