【10】
結局、一睡も出来ないまま、朝を迎えた。
昨日の豪雨が嘘のように、太陽が眩しい光を私の部屋に届けてくれる。
「…ただいま」
物音を最小限にして、家の中を伺うように小さな挨拶をしてママが帰って来た。
眠っていても、起きていても、ママは必ず自分の部屋ではなく私の部屋を先に見に来てくれる。
「…起きてたの?美雨」
「眠れなくて…」
「まだ、雷、ダメなの?」
「………」
確かに、この歳になって、雷がダメというのも少し恥ずかしいような…。
でも、今回の事は雷が原因ではない。
ママは、ベッドに上で膝を抱き、何も答えない私をそっと抱き締めてくれる。
「それとも、何かあったのかな?」
「………!!」
こんな朝方まで仕事をして大変なのに、いつも私の事を一番に考えてくれているのが、伝わってくるから、自然に涙がホロリとこぼれてしまう。
「ヒロくんと、何かあったのね」
「――っ!!!!」
ママが、いとも簡単に正解を当ててしまって、俯いてた顔を上げる。
「どんな気持ちも、言葉にして伝えないと苦しくなるばかり」
「……ママ!どうして、知って――」
「美雨は、私の大切な娘だもの」
「………」
「好きだと伝える事が出来る人が、居るって素敵な事よ」
「ママ……」
誰にも内緒にしていた、実結にさえ気付かせずに隠してた気持ちは、ママにはあっさり見破られていた。
「ママは、どんな時でも美雨の味方」
「わ、私!――っ」
ふわりと微笑むママ。
二人っきりの家族だからこそ、目に見えない家族の絆は強いと改めて感じた。
ママは、小さな欠伸をして「お昼まで休むわ〜」と部屋を出て行く。
机の上の置時計を見ると、5時45分を過ぎたところ。
朝食の用意をして、洗濯をして、学校へ行く準備をしても時間には余裕がある。
眠ってしまうには時間が少ないと思い、洗面所で顔を洗い鏡の中に居る自分自身に気合を入れる。
ヒロ兄に、この想いを伝えよう。
100%、振られると分かっていても、逃げてばかりでは何も始まらない。
ヒロ兄は困った顔をするだろう。
実結は私の事、どう思うかな?
そう考えると、怖くてたまらない。
でも、もう何もかも限界に達している。
いつまでも、閉じ込めて、隠し続けて、見ない振りをするなんて出来なくなってきている。
――どんな気持ちも、言葉にして伝えないと苦しくなるばかり。
ママの言葉を、呪文のように繰り返した。