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魔法の解像度を上げたら、世界が快適になりすぎた  作者: 茗子


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第85話 空飛ぶクジラと、雲の上のスフレパンケーキ

 上空1万メートル。

 アルリックたちの目の前を、巨大な『スカイ・ホエール』が悠々と泳いでいた。

 その背中には、可愛らしい庭付きのコテージが建っている。

 どうやらこれが、魔女ルルナの「実家(移動式)」らしい。

「……着陸する」

 ルルナが指差すと、クジラの背中にある芝生広場(?)のようなスペースが光った。

 アルリックはハンドルを切り、風魔法でスラスターを制御する。

 フワッ……。

 車は音もなく、クジラの背中に着地した。

 生物の上とは思えないほど安定している。

「……ただいま」

 ルルナが車を降りる。

 すると、クジラが嬉しそうに潮を吹いた。

 ブシュウウウウッ!!

 頭上の噴気孔から、虹色の霧が噴き上がる。

 その霧がパラパラと降り注いでくると、甘い香りが漂った。

「……ん? 甘い?」

 アルリックが落ちてきた「霧の結晶」を指先で受け止め、舐めてみる。

「……!」

 サッと溶ける。

 そして、濃厚な甘みが広がる。

「これは……水蒸気じゃない。高純度の『ショ糖』の結晶だ」

「……モービィ(クジラ)は、空の蜜雲を食べるから」

 ルルナが説明する。

 このクジラは、大気中の魔素と水分を濾過し、体内で濃縮して排出しているらしい。

 つまり、この潮吹きは――。

「天然の『綿あめ』か! しかも、空気がたっぷり含まれていて極上の口溶けだ!」

 アルリックの目が輝いた。

 こんな最高級の砂糖(食材)が、空から降ってくるなんて。

「よし。……この『雲の砂糖』を使って、究極の朝食を作ろう」

        ***

 アルリックは、車のトランクからキッチンセットと卵、牛乳を取り出した。

 場所は、クジラの背中のテラス席だ。

「作るメニューは……『スフレパンケーキ』だ」

「スフレ? パンなのかケーキなのか?」

 レオナルドが首をかしげる。

「パンケーキの概念を覆す、空気エアーを食べる料理さ」

 アルリックは卵を割り、黄身と白身に分ける。

 ボウルに入れた白身(卵白)を、泡立て器で攪拌する。

 シャカシャカシャカッ!!

 風魔法で回転数を上げる。

 そこへ、さっき採取したクジラの「雲の砂糖」を投入する。

「この砂糖は微粒子レベルで空気が含まれている。……卵白のタンパク質と結合し、最強の気泡安定性を生み出すんだ!」

 ツノが立つまで泡立てたメレンゲ。

 それはまるで、周囲の雲を切り取ったかのように白く、艶やかで、フワフワだ。

 そこへ黄身と小麦粉をサっくりと混ぜ合わせる。

 混ぜすぎない。泡を潰さない。

 そして、温めた銅板の上へ、生地を落とす。

 ぽてっ。

 ぽてっ。

 高く積み上げられた白い生地。

「蓋をして蒸し焼きにする。……弱火でじっくりと、中の空気を膨張させる」

 数分後。

 甘く、幸せな香りが雲の上に漂い始めた。

「……よし、焼き上がりだ」

        ***

 皿に乗せられたのは、厚さ5センチはある分厚いパンケーキが2枚。

 フルフルと震えている。

 重力に逆らうように膨らんだその姿は、まさに「食べる雲」だ。

 仕上げに、クジラの砂糖で作ったシロップと、バターを乗せる。

「さあ、冷めないうちに」

 ルルナとレオナルドが、フォークを入れる。

 シュワッ。

「……!」

 ナイフがいらない。

 フォークの重みだけで切れてしまう柔らかさ。

 口に入れる。

 ハフッ。

 ……シュワワワ……。

「消えた!?」

 レオナルドが目を見開く。

「噛んでねぇぞ! 舌の上で泡になって消えた!」

「……んんっ! ……甘い。……幸せ」

 ルルナが頬を赤らめて悶絶している。

 卵の優しい風味。

 バターの塩気。

 そして何より、クジラの砂糖が醸し出す、上品で軽やかな甘み。

「空気を含ませることで、カロリー密度は下がっている(気がする)。……いくら食べても太らない(気がする)」

 アルリック自身も、震えるパンケーキを口に運び、雲海を見下ろした。

 青い空。白い雲。

 そして、口の中で溶けるスフレ。

 最高のロケーションで食べる朝食は、地上のどんな高級レストランよりも贅沢だった。

「……私、もう降りない」

 ルルナが皿を抱えて宣言した。

「ここで一生、パンケーキを食べて暮らす」

「それは困る。……シロップが切れたら補給に来ないといけないからな」

 こうして、空の上のティータイムは平和に過ぎていった。

 だが。

 そんな優雅な時間をぶち壊すように、クジラの下――地上の方から、何やら騒がしい「爆音」が近づいてきていた。

 ドガガガガガッ!!

「……なんだ? ヘリコプターか?」

 アルリックが下を覗き込むと、そこには黒煙を上げながら飛んでくる「ほうきに乗った老婆」の姿があった。

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