表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の解像度を上げたら、世界が快適になりすぎた  作者: 茗子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/110

第84話 雲海のドライブと、成層圏クラブハウスサンド

 翌朝。

 エデンのガレージにて、歴史的な「改造」が行われていた。

「……できた。重力制御のルーン、刻んだ」

 魔女ルルナが、愛車『スリーピング・ビューティー号』のタイヤハウスに、幾何学的な魔法陣を書き込んで指を離した。

「よし。これでこの車は、重力係数を無視できる」

 アルリックも工具を置いた。

 彼が施したのは、車体の「空力エアロダイナミクス」の強化だ。

「いくら浮いても、風の抵抗を受けては乗り心地が悪い。……風魔法で車体全体を『流体被膜』で覆い、空気抵抗係数(Cd値)を限りなくゼロにする」

「おいおい、本当に飛ぶのかよ? 鉄の塊だぞ?」

 レオナルドが疑わしそうにバンパーを蹴る。

「乗ればわかる。……さあ、テイクオフだ」

        ***

 全員が乗り込み、アルリックがエンジン(魔導モーター)を始動させる。

 ヒュゥゥゥゥン……。

 いつもの振動がない。

 車体がふわりと浮き上がり、地面から離れていく。

「うおっ!? 浮いた!?」

「高度上昇。……推力全開!」

 ドォォォォォン!!

 後部ノズルから風魔法のジェット噴流がほとばしる。

 車は滑走路もなしに垂直上昇し、一気にエデンの空へと駆け上がった。

「ぎゃあぁぁぁぁッ!! 高い! 高いって!!」

 レオナルドが窓枠にしがみついて絶叫する。

 眼下にはエデンの街並みが、ジオラマのように小さくなっていく。

「……静かだ」

 後部座席のルルナは、ポテトチップス(昨夜の残り)を食べながら平然としている。

「成層圏手前まで行くよ。……雲の上なら、誰にも邪魔されない」

        ***

 数分後。

 車は厚い雲の層を抜け、その上に飛び出した。

 ――そこは、白と青の世界だった。

 下には一面に広がる真っ白な雲海。

 上には突き抜けるような群青の空。

 太陽の光が雲に反射し、神々しいまでの光景が広がっている。

「すげぇ……。雲が海みたいだ……」

 レオナルドも恐怖を忘れ、窓に顔を押し付ける。

「外気温度はマイナス20度。酸素濃度は地上の半分。……だが」

 アルリックは空調パネルを指差した。

「車内は24度。気圧調整与圧も完璧だ。……これぞ『空飛ぶスイートルーム』」

「……腹減った」

 ルルナがボソリと言った。

 絶景よりも食い気だ。

「そうだね。最高の景色には、最高の『機内食』が必要だ」

 アルリックは、助手席のバスケットを開いた。

「空の上で食べるなら、片手で持てて、かつ『高さ』のある料理がいい」

 取り出したのは、こんがりと焼けた3枚のトーストと、色とりどりの具材だ。

「作るよ。……『クラブハウスサンド』だ」

        ***

 アルリックは、空中の無重力を利用して具材を並べた。

「1階層目。……辛子マヨネーズを塗ったトーストに、カリカリに焼いたベーコンと、ジューシーなローストチキン」

 肉の旨味と脂のコク。

「2階層目。……中間のトーストを挟んで、フレッシュなレタスと、真っ赤な完熟トマトの輪切り」

 野菜の瑞々しさと酸味。

「そして3枚目のトーストで蓋をする! ……この『三層構造』こそが、味の摩天楼だ」

 ザクッ。

 包丁で対角線にカットし、崩れないようにピックで留める。

 美しい断面が現れた。

 赤、緑、白、茶色。

 層になった具材が、まるで地層のように食欲をそそる。

「はい、どうぞ」

 アルリックは全員にサンドイッチを配った。

 雲の上を時速100キロで滑空しながらのランチタイムだ。

 レオナルドが大きな口を開けてかぶりつく。

 バリッ! ザクッ!

「……うんめぇぇぇッ!!」

 パンの焼けた香ばしい音。

 レタスのシャキシャキ音。

 そして、ベーコンのクリスピーな食感。

「パンが3枚もあるのに全然重くない! トマトの酸味が肉の脂をサッパリさせてくれる!」

「……ん。……美味しい」

 ルルナも夢中で頬張っている。

「複雑。……いろんな味がする。……でも、一つにまとまってる」

「だろう? 空の上では気圧の関係で味覚が鈍くなる。だから、少し濃い目のベーコンと、トマトの旨味(グルタミン酸)が最適なんだ」

 アルリックは、コーラでサンドイッチを流し込んだ。

 青い空。白い雲。そして極厚のサンドイッチ。

 QOLは、ついに高度1万メートルに達した。

「……あれ?」

 ルルナが、ふと窓の外を指差した。

「……何か、いる」

「ん? 鳥か?」

 アルリックが見ると、雲海の中から「巨大な影」がゆらりと浮上してきた。

 それは鳥ではない。

 ヒレを持ち、優雅に空を泳ぐ――。

「……魚? いや、クジラか!?」

 全長30メートルはあるだろうか。

 空を飛ぶ巨大なクジラ――『スカイ・ホエール』が、車の並走するように現れたのだ。

 そして、その背中には、なんと「小さな家」が建っていた。

「……あれは?」

「……私の実家(浮遊島)」

 ルルナがポツリと言った。

「えっ」

「……あのクジラ、私の島を運んでる」

 どうやら、引きこもりの魔女は、家ごと移動するタイプだったらしい。

 そして、そのクジラの口からは、何やら「美味しそうなもの」が吐き出されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ