第71話 温室の奇跡と、完熟マンゴーのとろけるパフェ
バーガーと強炭酸サイダーという「背徳の宴」から一夜明け。
エデンのリビングには、どこかゆったりとした時間が流れていた。
「……肉は最高だった。だが、重いものを食べた翌日は、ビタミンと上品な糖分が欲しくなる」
アルリックはそう言って、再びあの『エデン魔導温室』へと足を運んだ。
イチゴの収穫はひと段落したが、その隣の区画では、今まさに「主役」が交代の時を迎えていた。
「……よし、いい色だ。密度も申し分ない」
アルリックが見上げる先には、春先に植えた苗が立派な樹木へと成長し、枝をたわませるほどの果実を実らせていた。
南方の国から取り寄せた、熱帯の至宝――マンゴーだ。
「アルリック様、それは……イチゴとはまた違う、情熱的な色をしていますわね」
後からついてきたエレノアが、黄金色に赤みが差した果実を不思議そうに見つめる。
「マンゴーだよ。この温室の一定した熱源と湿度管理がなければ、この領地では絶対に見られない光景だね」
***
アルリックは、樹上で完熟し、自らの重みでネットに落ちた「最高級品」を収穫した。
キッチンに戻り、包丁を入れる。
スゥ……。
皮を剥いた瞬間、辺りに南国を思わせる、濃厚で芳醇な香りが爆発した。
「(解像度を上げろ。……細胞を壊さないよう、繊維に沿ってダイスカット。……中心の種を避けつつ、果汁の一滴も逃さない)」
輝くようなオレンジ色の果肉。それを贅沢に使って、アルリックは組み立てを開始した。
底には、果汁たっぷりのマンゴープリン。
その上に、サクサクのココナッツサブレ。
そして、自家製バニラアイスと、今剥いたばかりの「完熟果肉」をこれでもかと盛り付ける。
「仕上げに、ライムの皮を少し。……完成だ。『エデン・トロピカルパフェ』」
***
実食。
エレノアが、宝石のような果肉をスプーンですくい、口へ運ぶ。
「……っ!? これ、本当に果物ですの!?」
エレノアが目を丸くした。
「噛む必要がありませんわ……! 舌の上でとろけて、濃厚な甘みが波のように押し寄せてきます! でも、後味が驚くほど爽やかですわ!」
「どれどれ……うおっ、甘ぇ!! なんだこの濃さは! 昨日までのジャンクな気分が一気にリフレッシュされるぜ!」
レオナルドも、ポテトを掴んでいた指を綺麗に洗い、夢中でパフェを掘り進めている。
「……そうだろう。このマンゴーは、温室という『閉鎖環境』で栄養を極限まで凝縮させたからね。これ一株で、王都の高級料亭一ヶ月分の利益が出るよ」
アルリックは、自分のパフェを食べながら冷静にソロバンを弾いた。
温室栽培の成功。それは、エデンが冬でも春でも、世界中の「美味いもの」を支配できることを意味していた。
「……ふぅ。これで夏への準備は万端だ」
アルリックは窓の外、照りつけ始めた太陽を見上げた。
温室のマンゴーがこれだけ美味いなら、夏本番に「あの氷」と組み合わせれば、どれほどの衝撃になるか。
こうして、エデンの食卓は季節を超越し、さらに豊かになっていくのだった。




