第69話 耐圧スイングボトルと、弾ける強炭酸サイダー
エデンの夕暮れ時。
一日の労働を終えたアルリックは、自慢の『循環式ヒノキ風呂(温泉)』に浸かりながら、天井を仰いでいた。
「……ふぅ。極楽だ」
41度の適温。硫黄の香りと、ヒノキの香り。最高のQOLだ。
だが、風呂から上がった瞬間、彼の中に「ある渇望」が生まれることを知っていた。
(……以前作ったラムネも悪くないが、あのビー玉式は洗浄が面倒で再利用に向かない。……もっとガツンとくる、喉を突き刺すような『強炭酸』が飲みたい)
かつてお祭り用に開発したラムネは、子供たちには大人気だった。しかし、今のアルリックが求めているのは、より高度な炭酸飲料の「量産」と「保存」の確立だった。
「……瓶も、ガスも、さらに進化させる。……今の僕なら、もっと解像度の高い『泡』が作れるはずだ」
***
翌日。アルリックはガラス工房で、ドワーフのガリンに指示を出していた。
「瓶だ。……ただし、普通の瓶じゃない。内側からの猛烈な圧力に耐えられる、分厚い耐圧ボトルを作ってくれ」
「圧力? 中に爆弾でも詰めるのか?」
「似たようなものさ。……ガスを限界まで閉じ込めるんだ」
アルリックが設計したのは、金属のワイヤーとゴムパッキンを組み合わせた『スイングトップ式(機械栓)』のボトルだ。
温室の建設で培った、歪みのない強化ガラスの技術を応用し、堅牢な青緑色のボトルが完成した。これなら、強いガス圧でも栓が吹き飛ばないし、洗浄して何度でも清潔に再利用できる。
次は中身のブラッシュアップだ。
アルリックは、井戸から汲み上げた冷たい水を、耐圧タンクに入れた。そこに、レモンの絞り汁と、たっぷりの砂糖を溶かす。
「ここからが本番だ」
(解像度を上げろ。……ヘンリーの法則に従い、水温を限りなく0度へ。……ガス炉から抽出した純度の高い二酸化炭素を、5気圧という超過酷な圧力で無理やり水分子の隙間にねじ込む)
ブクブクブク……!!
水がガスを限界まで飲み込み、飽和状態になる。
これを素早く新型ボトルに充填し、ガチャリとワイヤーを閉じる。
「……完成だ。エデン特製、超強炭酸『レモンサイダー』」
***
その夜。
風呂上がりのラウンジに、エデンの主要メンバーが集められた。
「アルリック様、これはなんですの? お水の中で、以前のラムネよりも激しく泡が踊っていますわ」
湯上がりのエレノアが、濡れた髪を拭きながら不思議そうに見る。
「……さらに『攻撃的な水』に仕上げたよ。……さあ、開けてみて」
レオナルドが金具を外した。
パァンッ!!!
銃声のような、小気味よい破裂音が響いた。瓶の口からは、真っ白な冷気の霧が漂う。
「うおっ!? なんだこの圧は! 前のラムネよりずっと強烈だぞ!」
「いい音だ。……さあ、冷たいうちに一気にいって」
レオナルドはおそるおそる瓶に口をつけ、一気に煽った。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……。
「…………ッッ!!?」
レオナルドが目を白黒させ、喉を押さえて悶絶した。
「痛ってぇぇぇッ!! なんだこれ、喉の中で無数の針が暴れてやがる!? だが……このキレ味、たまんねぇな!」
「わたくしも……んぐっ、んんっ……! シュワシュワが止まりませんわ! レモンの酸味とこの刺激、火照った体に染み渡りますわ!」
エレノアも頬を赤らめて感嘆の声を上げる。
「カァーッ! これじゃ! この爽快感! 唐揚げに合うのはこれじゃ!」
国王オスワルドが、サイダーをウイスキーで割った『ハイボール』を煽り、狂喜乱舞する。炭酸のキレ味は、油っこい料理の脂を一瞬で流してくれる。
こうして、エデンの夜に「シュワシュワ」という新たな音が加わった。
瓶の中で激しく弾ける泡は、エデンのQOLをさらに一段階押し上げた。
アルリックは満足げに頷いた。
温室の野菜。この強炭酸サイダー。そして牧場の肉。
パーツはすべて揃った。
「……さて。これらを一つにまとめた『完全食』の出番だね」




