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魔法の解像度を上げたら、世界が快適になりすぎた  作者: 茗子


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第64話 勇者の転職と、スライム牧場の拡大

 翌朝。

 エデンの迎賓館(高級宿屋仕様)で目覚めた勇者アレックスは、フカフカのベッドの上で天井を見上げていた。

「……俺は、捕虜になったのか?」

 昨夜の記憶は曖昧だ。

 覚えているのは、恐ろしく美味いクロワッサンと、コタツという魔道具の暖かさ、そして……。

「おはよう、勇者くん。朝ごはんだよ」

 ドアが開き、エプロン姿のアルリックが入ってきた。

 手には、湯気を立てる焼きたての『厚切りバタートースト』と『ホットミルク』が乗ったトレイ。

「……ど、毒か? 最後の晩餐か?」

「違うよ。これから働いてもらうためのエネルギー補給だ」

 アルリックはニッコリと笑った。

 その笑顔は、慈愛に満ちているようでもあり、敏腕経営者のようでもあった。

「君たちが食べたクロワッサンと、壊した(汚した)玄関の修理費。……合わせて金貨10枚かな」

「じゅ、10枚!? そんな大金、持っていないぞ!」

「だよね。……だから、体で払ってもらう」

 アルリックは一枚の契約書(羊皮紙)を差し出した。

「おめでとう。今日から君たちは、エデン特産『スライム牧場』の従業員だ」

        ***

 地下ダンジョン、第一層。

 そこはかつての薄暗い迷宮ではなく、明るい照明(発光苔の光量調整済み)に照らされた、巨大な飼育施設になっていた。

 プヨヨン……ポヨヨン……。

 柵の中には、数百匹のスライムたちがひしめき合っている。

「……ここで、何をすればいいのだ?」

 作業着つなぎに着替えさせられたアレックスが、聖剣を背負ったまま尋ねる。

 隣には、同じくつなぎ姿の魔法使い、武闘家、聖職者が並んでいる。

「簡単だよ。……スライムの『肩こり』をほぐしてほしいんだ」

 アルリックは柵の中の一匹を指差した。

「野生のスライムは、外敵への警戒心から常に緊張している。……筋肉(細胞壁)が硬直して、硬いんだ」

(解像度を上げろ。……現在の硬度はタイヤ並み。これでは人をダメにするクッションの素材『低反発ウレタン』としては失格だ)

「そこで、君の『聖剣』の出番だ」

「聖剣!? スライムを斬れと言うのか!?」

「違う。……聖剣から出る『聖なる波動』。あれは特定の周波数を持っている」

 アルリックはホワイトボードを取り出し、波動関数を書き始めた。

「君の聖気は、邪悪を浄化するだけじゃない。……細胞の分子振動を整え、リラックスさせる『α波』を含んでいるんだよ」

「は、はあ……?」

「つまり、聖剣の腹でスライムを優しく叩く(タッピングする)ことで、極上のマッサージ効果が生まれる。……やってみて」

 アレックスは半信半疑で、聖剣を鞘さやに収めたまま、目の前のスライムをポンポンと叩いた。

「……こ、こうか? ……癒やされよ、スライム……」

 ボヨヨン。

 聖なる光がスライムを包む。

 すると。

 ――トロォォォ……。

 角張って硬かったスライムが、一瞬にして餅のように柔らかく、平べったく変形した。

「キュウッ♪(気持ちいい〜)」

 スライムが恍惚の声を上げる。

「成功だ! 見ろ、この粘度! 押せばゆっくり戻る『メモリーフォーム(形状記憶)』の完成だ!」

 アルリックがスライムに指を押し込むと、指の跡がゆっくりと消えていく。

 これぞ、人をダメにするクッションの中身。

「す、すごい……! 俺の聖剣に、こんな使い方があったなんて……!」

 アレックスは感動した。

 今まで「斬る」ことしか知らなかった聖剣が、「癒やす」道具になったのだ。

「よし、みんな! ジャンジャンほぐすぞ! これは魔王討伐よりもやりがいがある!」

「了解よ! 私、魔法で温めるわ!」(魔法使い)

「俺はツボを押す!」(武闘家)

「私は賛美歌を歌ってリラックスさせます!」(聖職者)

 勇者パーティの連携プレーにより、スライムたちは次々と「極上のクッション素材」へと加工(堕落)されていった。

        ***

 昼休憩。

 汗を流した彼らを待っていたのは、アルリック特製の『労働者のためのメシ』だった。

「……働いた後には、これだね」

 ドンッ!!

 テーブルに置かれたのは、山盛りのキャベツと、その上に乗った茶色い肉の塔。

 『豚の生姜焼き定食(マヨネーズ添え)』だ。

「……なんだこの香りは! 醤油と……生姜か!?」

 アレックスの喉が鳴る。

「豚肉にはビタミンB1が豊富だ。疲労回復に効く。……そして、すりおろした生姜の酵素プロテアーゼが肉の繊維を分解し、驚くほど柔らかくしている」

 ジュウウゥ……。

 鉄板の上で、タレが焦げる音が食欲を刺激する。

 アレックスは箸を割り、肉でキャベツを巻いて口に運んだ。

 ガブリ。

「…………ッ!!」

 濃い!

 甘辛いタレの味が、労働で塩分を失った体に染み渡る!

 

 そして、生姜のピリッとした刺激が、豚の脂の甘みを引き締める。

「うめぇぇぇッ!! 白飯だ! 白飯を持ってこい!」

「はい、銀シャリ大盛り」

 出された白飯をかっこむ。

 肉、飯、肉、飯、キャベツ。

 止まらない無限ループ。

「はぐ、むぐ……! こんな美味いものが……魔王の城にあるなんて……!」

 武闘家も魔法使いも、無言で定食を平らげている。

「……どうだい? ここでの暮らしは」

 アルリックが食後の茶を出しながら尋ねる。

 アレックスは、空になった皿を見つめ、満足げに腹をさすった。

「……悪くない。いや、最高だ」

 彼は聖剣を壁に立てかけた。

「俺は……今まで何のために戦っていたんだろうな。……スライムを癒やして、美味い飯を食う。……こっちの方が、よほど『世界平和』に貢献している気がするよ」

「そうだね。……QOLを高めることこそが、真の平和だからね」

 こうして、勇者アレックスは「スライム牧場長」に就任した。

 彼の聖剣によって作られたクッション『勇者ヨギボー』は、後に王都で爆発的なヒット商品となり、エデンの財政をさらに潤すことになる。

 だが、牧場が軌道に乗れば、次に必要になるのは「出荷」のためのルートだ。

 春の訪れと共に、エデンはさらなる拡大を目指す。

 アルリックの目は、まだ見ぬ「南の密林」と、そこに眠る「黄金の果実」に向けられていた。

 次回、冒険の予感!

 甘いバナナを求めて、ジャングル・クルーズへ出発進行!

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