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魔法の解像度を上げたら、世界が快適になりすぎた  作者: 茗子


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第54話 除夜の鉄槌と年越し海老天そば

 エデンに二度目の冬がやってきた。

 かつては荒野に吹き荒れていた寒風も、今ではアルリックの屋敷の煙突から昇る暖かな煙と、温泉の湯気に包まれてどこか優しく感じる。

「……早いものですわね。アルリック様と出会って、もう一年が経ちますのね」

 コタツ(冬の絶対王政)に下半身を埋めたエレノアが、しみじみと呟いた。

 隣では、国王オスワルドが「うむ」と頷きながら、カエデとジンの三人で「年賀状(という名の感謝状)」をエルフやドワーフたちに書いていた。

「今日は『大晦日おおみそか』。……一年のあかを落として、新しい年を迎える準備をする日だよ」

 アルリックはそう言いながら、キッチンの奥から「細長い何か」を取り出した。

「カエデさん、出番だよ。……今日はうどんじゃなくて、これだ」

「……これは、蕎麦ソバの実ではないか!」

 カエデがガタッと立ち上がった。

 エデンで密かに栽培されていた蕎麦。それを石臼で挽き、丁寧に打った蕎麦切り。

「年越しには、これを食べるのが拙者の国の……いや、アルリック殿の故郷の風習なのだな?」

「そう。……蕎麦は切れやすいから『一年の苦労を切り捨てる』。そして細く長いから『長寿を願う』。縁起物なんだ」

        ***

 深夜。

 エデンの空には満月が輝き、雪が青白く光っている。

 ゴーン……。

 広場に設置された巨大な魔導釣鐘が、重厚な音を響かせた。

 突くのは、レオナルドだ。

 彼は魔法を使わず、その剛腕で巨大な撞木しゅもくを振るい、人々の煩悩を物理的に打ち砕いていく。

「……よし! 108回、打ち終わったぜ! 筋肉が喜んでる!」

 清々しい表情のレオナルドたちを、温かな湯気が立ち上る食堂が迎えた。

「さあ、みんな。……『年越し海老天そば』だよ」

 アルリックが配った丼には、澄んだ醤油ベースのつゆに、薄茶色の蕎麦。

 その上には、器からはみ出すほど巨大な『海老の天ぷら』が二本、誇らしげに鎮座していた。

「……この海老、もしや先日、西の深海で仕留めた『クラーケン・シュリンプ』か?」

 ジンが冷静に分析する。

「当たり。……衣はサクサク、身はプリプリだよ」

 全員が箸を手に取る。

 まずは、つゆを一口。

 ズズッ……。

「…………ああぁ……」

 国王が漏らした。

 カツオと昆布、そして蕎麦の香りが混ざり合った、優しくも深い味わい。

 冷えた体に、温かなつゆが染み渡る。

「次は蕎麦だ。……すするぞ」

 ズルズルズルッ!!

「……っ!! うどんとは違う、この独特の歯切れの良さと、鼻に抜ける香ばしさ!」

 カエデが感動に震える。

 そして、つゆを吸って少し衣が柔らかくなった海老天に、かぶりつく。

 サクッ……プリィィィン!!

「……んんっ!! 海老の甘みが爆発しますわ!!」

 エレノアが声を弾ませる。

 サクサクの衣につゆが染み込み、それが極上のソースとなって海老の旨味を引き立てる。

 揚げたての天ぷらと、温かい蕎麦。

 シンプルながら、これ以上に贅沢な年越しがあるだろうか。

「……一年の苦労が、本当に溶けていくようじゃな」

 国王が目を細める。

 息子ルディウスの反乱(?)や、古龍の襲来。色々あった一年だったが、この一杯がすべてを肯定してくれる。

「……あ、ブラン。お前にもあるよ。……海老天特盛りの『スペシャルそば』だ」

「キュウ〜〜ッ!」(やったー!)

 ブランも、自分の大きめのお椀に入った蕎麦を、尻尾をブンブン振りながら「ズルズルッ!」と器用にすすっている。

 海老天も頭からバリバリと完食だ。神獣の胃袋に死角はないらしい。

        ***

 食後。

 一行は、屋敷のバルコニーから、エデンの街並みを見下ろした。

 灯りは消えず、人々が笑い合い、新しい年を待っている。

「……来年は、どんな年になるかな」

 アルリックが呟くと、隣にいたエレノアが、そっと彼の袖を掴んだ。

「……どんな年になっても、わたくしはアルリック様の側にいますわ。……あ、美味しいものがある限り、ですけれど!」

「ははは。……期待に応えるよ」

 カエデもジンも、レオナルドも、皆がそれぞれの思いを胸に、夜空を見上げる。

「――おめでとう。新しい年だ」

 日付が変わった瞬間、エデンの夜空に、アルリックが用意した祝祭の魔法光が飛び交った。

 かつての荒野は、今や誰もが帰りたくなる「楽園」へと姿を変えていた。

 エデン開拓記、第一部・完。

 ……と言いたいところだが、翌朝の『おせち料理』と『お雑煮おぞうに』、そして「お年玉」を巡るドタバタ劇が、すぐに幕を開けることになるのである。

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