第52話 空から落ちた迷子ととろ〜りチーズのピザ
運動会の翌日。
筋肉痛で動けないレオナルドたちが、庭の芝生で日向ぼっこをしていると、空からヒュルルル……という音が聞こえてきた。
「……ん? 鳥のフンか?」
レオナルドが見上げる。
だが、その影は急速に大きくなり、
ドズゥゥゥン!!
エデンの広場の中央に、隕石のごとく落下した。
土煙が舞う。
アルリックたちが慌てて駆け寄ると、クレーターの中心で「ギャー! ギャー!」と甲高い声で泣き叫ぶ生き物がいた。
赤い鱗。小さな翼。そして、短い尻尾。
体長1メートルほどの、トカゲ……いや。
「……ドラゴン?」
アルリックが目を丸くした。
それは、伝説の最強種族『ドラゴン』の幼体だった。
「ギャァァァン!!」
ベビーは涙を流しながら、口からポスッ、ポスッとおぼつかない火の玉を吐いている。
どうやら空を飛ぶ練習中に、力尽きて落ちてしまったらしい。
「か、可愛いですわ……! でも、火を吹いています!」
エレノアがおろおろする。
ベビーはお腹が減っているのか、不機嫌の極みだ。
レオナルドが干し肉を差し出すが、「プイッ!」と顔を背けて焼いてしまった。
「……困ったな。ドラゴンの離乳食なんて知らないぞ」
アルリックは考えた。
高カロリーで、温かくて、子供が好きそうなもの。
そして、この火を吹く「窯」のような口を持つ客人にふさわしい料理。
「……そうだ。地下遺跡の壁画にあった『PIZZA』を作ろう」
***
アルリックは、庭にレンガを積み上げ、即席の『石窯』を作った。
そして、小麦粉を練って発酵させた生地を、空中でクルクルと回して円形に伸ばす。
「……おお! 生地が回っておる!」
カエデや子供たちが歓声を上げる。
薄く伸ばした生地の上に、
・煮詰めた完熟トマトソース。
・自家製ベーコンとサラミ。
・バジル(香草)。
・ピーマンとコーン。
そして、主役の『モッツァレラチーズ(バイソン乳製)』を、これでもかとたっぷりと乗せる。
白と赤と緑。イタリア国旗のような美しい配色。
「焼くぞ! ……ベビー、ちょっと手伝ってくれ」
アルリックは、泣き止まないドラゴンの口元に、ピザを乗せたピール(木のヘラ)を近づけた。
「……ギャッ?」
「火を貸してくれ。……君の炎で焼くのが一番美味しくなるんだ」
ベビーはきょとんとして、本能的に「カッ!」と口を開けた。
ボオォォォッ!!
ドラゴンのブレスが石窯の中に吹き込まれる。
超高温の熱風。
一瞬で窯の温度が400度を超えた。
「ナイス火力! 今だ!」
アルリックはピザを滑り込ませた。
ジューーーーーッ!!
生地が焼ける香ばしい音。
チーズがふつふつと沸騰し、焦げ目がついていく。
わずか90秒。
圧倒的な火力で焼き上げられたピザが、窯から出された。
「……完成だ。ドラゴンの炎で焼いた『石窯焼きピザ』」
***
香ばしい小麦と、焦げたチーズの香り。
それが漂った瞬間、ベビーの涙が止まった。
くんくん、と鼻を動かす。
「さあ、お食べ」
アルリックがピザカッターで8等分し、一切れを差し出す。
ベビーは恐る恐る噛み付いた。
ハフッ。
その時だった。
ベビーが顔を上げると、口からチーズが――。
びよ〜〜〜〜〜ん!!
どこまでも伸びた。
白いチーズが糸を引き、熱々の湯気が立ち上る。
「キュ〜ッ!!」(うまい〜ッ!!)
ベビーの目が輝いた。
トマトの酸味と、チーズのコク。そしてカリッカリの生地。
今まで食べたことのない味に、ベビーは夢中でかぶりついた。
「わたくしたちも頂きましょう!」
エレノアたちもピザを手に取る。
持ち上げると、チーズが雪崩のように垂れ落ちる。
「……熱っ! でも……サクサクですわ!」
「トマトソースが爽やかだ! 濃厚なチーズとしょっぱいベーコンが、口の中で暴れまわるぞ!」
レオナルドは、ピザを二つ折りにして豪快に食べた。
「こりゃあいい! 片手で食えるし、酒のつまみにもなる!」
カエデは、タバスコ(地下で見つけた唐辛子ソース)を少しかけて食べた。
「……ピリ辛が合う。……ビール(麦酒)を持ってこい!」
全員が笑顔でピザを囲む。
ベビーも、ブランと一緒になってピザの耳まで綺麗に食べてしまい、すっかり満腹になってアルリックの膝の上で眠ってしまった。
その寝顔は、破壊の化身とは思えないほど愛らしい。
「……やれやれ。お母さんが迎えに来るまで、しばらく面倒を見るしかなさそうだね」
アルリックはドラゴンの頭を撫でた。
しかし、彼はまだ知らなかった。
この子の母親が、伝説の『古龍』であり、子供を探してエデンに向かって爆走中であることを。
次回、エデン上空に巨大な影!
激怒する母竜を鎮めるため、アルリックが用意するのは……「ジャンボ・ハンバーガー」!?




