第51話 筋肉の祭典と重箱の唐揚げ
雲ひとつない秋晴れ。
エデンの広場は、万国旗(全部手作り)で彩られ、熱狂の渦に包まれていた。
「――これより、『第一回エデン大運動会』を開催する!」
ジャージ(スライム繊維製)に身を包んだアルリックが高らかに宣言した。
だが、そのルールは過酷だった。
「本日は『魔法使用禁止』だ。……身体強化も、飛行魔法もなし。純粋なフィジカルだけで勝負してもらう!」
「待ってましたァァァッ!!」
赤組のキャプテン、騎士レオナルドが野太い声で咆哮した。
彼は上半身裸にハチマキという、やる気満々のスタイルだ。
その背後には、ドワーフの親方ガリン率いる筋肉隆々の「パワー系」チームが控えている。
「ふん。……魔法などなくとも、サムライの足腰は最強だ」
対する白組キャプテンは、女侍カエデ。
彼女の背後には、身軽なエルフたちと、俊足の忍者ジンが控えている。
「……わたくし、走るのは苦手ですのよ?」
聖女エレノア(白組)が不安げに呟くが、アルリックはニヤリと笑った。
「大丈夫。……運動会の本当の主役は、競技じゃない」
「え?」
「『お弁当』だよ」
***
午前中の競技(玉入れ、綱引き)が終わり、腹ペコになった選手たちが昼休憩に入った。
広場にゴザが敷かれ、アルリックが巨大な「重箱」をドーンと広げる。
パカッ。
その瞬間、全員の目が釘付けになった。
「うおおおっ! なんだこの宝箱は!」
重箱の中には、日本の運動会の定番おかずがぎっしりと詰まっていた。
・鶏の唐揚げ(醤油と生姜で漬け込んだ)。
・厚焼き玉子(甘め)。
・タコさんウインナー(赤くて足が開いている)。
・ブロッコリーとプチトマト(彩り)。
・俵型のおにぎり(鮭、昆布、梅干し)。
「……唐揚げだ」
アルリックが一番自信を持って勧めるのが、この唐揚げだ。
二度揚げすることで、衣はカリッと、中はジューシーに仕上げてある。
「いただきまーす!」
レオナルドが大きな唐揚げを素手で掴み、口に放り込む。
カリッ……ジュワァァァ……!
「…………ッ!!」
咀嚼音が響く。
「……サクサクだ! 衣が香ばしい! なのに、噛んだ瞬間に肉汁が鉄砲水のように溢れてきやがる!」
醤油の焦げた香りと、生姜の爽やかな風味が鼻に抜ける。
運動で疲れた体に、濃いめの味付けが染み渡る。
「……この黄色い卵焼き、甘くてふわふわですわ……!」
エレノアが頬を緩ませる。
塩味の効いたおにぎりと、甘い卵焼きの永久機関。
カエデは、タコさんウインナーを箸でつまみ上げ、真剣な眼差しで見つめていた。
「……見事だ。この足の反り返り……均等に切り込みを入れる職人技を感じる」
パクッ。
「……パリッとした皮の食感。……懐かしい味がする」
忍者ジンも、おにぎりを無言で頬張りながら、唐揚げを次々と口に運んでいる(すでに5個目)。
重箱の中身は、瞬く間に消えていった。
***
そして午後。
満腹になった一行を迎えるのは、最終種目『チーム対抗リレー』だ。
「アンカーは、各チームの代表が出る!」
赤組アンカーは、もちろんレオナルド。
白組アンカーは……なんと、アルリックではなく、ブラン(白い魔獣)だった。
「キュウッ!」
ブランがハチマキを巻いて準備運動をしている。
「……おいおい、魔獣相手に走れってのか? 俺だって人間の限界を超えてるが、さすがに分が悪いぞ?」
レオナルドが苦笑するが、アルリックは不敵に笑った。
「ハンデをあげよう。……ブランのコース上には『障害物』を置いてある」
パンッ!
国王オスワルド(審判)のピストルが鳴った。
よーい、ドン!
第一走者のエルフとドワーフが駆け出す。
中盤、カエデとジンの高速パス回しで白組がリードするが、赤組もレオナルドの部下たちが泥臭く食らいつく。
そして、バトンはアンカーへ。
「任せろぉぉぉッ!!」
バトンを受け取ったレオナルドが爆走する。
地面が揺れるほどの脚力。まるで暴走機関車だ。
一方、ブランもバトン(を口にくわえて)スタート!
シュバッ!
速い!
白い稲妻となってレオナルドを追い抜く。
勝負ありかと思われた、その時。
コース上に置かれた「ザル」の中に、あるものが置いてあった。
――焼きたての『メロンパン』である。
「キュッ!?」
ブランが急ブレーキをかけた。
鼻をひくつかせる。
甘いクッキー生地の香り。
「キュウ〜〜〜!」(食べたい!)
ブランはバトンを放り出し、メロンパンに飛びついた。
罠だ。
アルリックが仕掛けた「パン食い競走」の罠だ。
「ぬおおおっ! チャンスだァァァッ!」
その隙に、レオナルドが猛然と追い抜いていく。
ゴールテープは目の前。
「勝ったッ! 唐揚げのおかわりは俺のもんだァァァッ!」
だが。
メロンパンを一瞬で飲み込んだブランが、再加速した。
食べた分だけエネルギーに変換されたのだ。
ズザザザザッ!!
ゴール直前。
白い影と、筋肉の塊が同時にテープを切った。
「……同着!!」
***
結果は引き分け。
賞品の「新米1年分」は、全員で山分けして『おにぎりパーティー』を開催することで決着した。
「……走った後の飯は美味いな!」
夕暮れの空の下、おにぎりを頬張るレオナルドの横顔は、少年のような笑顔だった。
エデンの秋は、心地よい疲れと、満腹感とともに更けていく。
しかし。
そんな平和なエデンに、ついに「空からの来訪者」が現れる。
それは魔物でも、敵国の兵器でもない。
もっと厄介な……「ドラゴン」の子供だった。
次回、迷子の竜と、とろ〜りチーズの「ピザ」作り!




