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魔法の解像度を上げたら、世界が快適になりすぎた  作者: 茗子


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第50話 恋の火花と夜空に咲く大輪

 エデンの夏。

 日中の茹だるような暑さが和らぎ、心地よい夜風が吹き始めた頃。

 メインストリートには、無数の「提灯(魔法の光)」が灯り、幻想的な光の道が出来上がっていた。

「……アルリック様。こ、これは……どうかしら?」

 屋敷の玄関で、聖女エレノアが恥ずかしそうに袖を広げた。

 彼女が着ているのは、アルリックがデザインし、エルフたちが最上級のシルクで織り上げた『浴衣ユカタ』だ。

 紺地に、白い朝顔の柄。

 普段のドレスとは違う、うなじが見える艶やかな姿に、アルリックは一瞬言葉を失った。

「……とても、お似合いですよ。……見惚れてしまいました」

「も、もう! からかわないでくださいまし!」

 エレノアは顔を真っ赤にして扇子で顔を隠すが、その耳まで赤い。

 カエデもまた、シックな黒の着流しを着崩し、腰に刀を差した「姉御肌」な姿で現れた。

「ふふ。……やはり、この格好が一番落ち着くな」

 国王オスワルドも、甚平じんべい姿でリラックスしている。

 完全に日本の夏祭りの風景だ。

「さあ、行こうか。……今夜は無礼講だ!」

        ***

 広場には、アルリックの指示で作られた「屋台」がずらりと並んでいた。

 ソースの焦げる匂い。

 甘い砂糖の香り。

「おい! こっちだ!」

 ガリン親方が、巨大な鉄板の前でコテを振るっていた。

 鉄板には、半球状のくぼみが無数にあり、そこでコロコロと丸い何かが焼かれている。

「……『タコ焼き』だ!」

 具材は、以前海で仕留めた「デビル・クラーケン」の足。

 弾力のあるタコと、紅生姜、ネギ、天かす。

 それを小麦粉の生地で包み、外はカリッ、中はトロッとなるように焼き上げる。

「熱いから気をつけろよ!」

 渡された舟皿の上で、ソースとマヨネーズ、そしてカツオ節が踊っている。

 エレノアが爪楊枝で一つ刺し、フーフーと息を吹きかけてから口へ。

 ハフッ……アツッ!!

「……んんっ! 熱い! でも……トロトロですわ!」

 ハフハフしながら咀嚼すると、中から熱々の出汁とタコの旨味が溢れ出す。

「ソースの酸味とマヨネーズのコク……! これは悪魔的な美味しさです!」

 他にも、『焼きそば』『リンゴ飴』『かき氷』など、エデンの食材をフル活用した屋台グルメに、レオナルドやジンたちも大はしゃぎで食らいついている。

 だが、今夜のメインイベントはこれからだ。

        ***

 ドン……ドン……。

 太鼓の音が響き、広場の照明が少し落とされた。

「……みんな、空を見てくれ」

 アルリックが指差した先。

 星が瞬く夜空に、一筋の光が昇っていった。

 ヒュルルルルル……。

 全員が息を呑んで見上げる。

 光が頂点に達した、その瞬間。

 ドンッ!!

 パララララ……!

 夜空に、巨大な光の華が咲いた。

 赤、青、緑、金。

 宝石をばら撒いたような輝きが、ドーム状に広がり、そして儚く消えていく。

「……あ……」

 エレノアが口を開けたまま固まった。

 今まで見たどんな攻撃魔法よりも美しく、どんな宝石よりも鮮烈な光。

「『打ち上げ花火』だよ」

 アルリックが隣で解説する。

「ドワーフの火薬技術と、僕の錬金術(炎色反応)を組み合わせたんだ。……綺麗だろう?」

 ドドン! パァァァン!

 次々と花火が打ち上がる。

 柳のように垂れ下がる金色の光。

 パチパチと音を立てて弾ける銀色の星。

 心臓に響く重低音。

「……たまや〜〜〜ッ!!」

 カエデが通な掛け声を上げる。

 国王も、酒を飲む手を止めて見入っていた。

「……王都の舞踏会など、これに比べれば蝋燭ろうそくの火遊びじゃな」

 エデンの住人たち、エルフもドワーフも、皆が空を見上げ、その美しさに涙している者もいた。

 戦いではなく、ただ人々を喜ばせるための爆発。

「……アルリック様」

 不意に、エレノアがアルリックの袖を掴んだ。

 花火の光に照らされた彼女の横顔は、どこか切なげで、しかし今までで一番美しかった。

「……わたくし、この夏のこと、一生忘れませんわ」

「……ええ。来年もまた、見ましょう」

 アルリックが微笑むと、エレノアは嬉しそうに頷き、そっと彼の肩に頭を預けた。

 ブランも二人の足元で、「キュ〜」と甘えた声を出しながら花火を見上げている。

 ドォォォォォン……!

 最後に、一際巨大な金色の花火(尺玉)が上がり、夜空を真昼のように明るく染め上げた。

 その光が消えた後も、人々の瞳には残像が焼き付いていた。

 祭りのあと。

 静けさが戻ったエデンに、秋の気配を含んだ風が吹き抜ける。

 楽しかった夏が終わる。

 だが、アルリックの開拓記は終わらない。

 食欲の秋、芸術の秋。

 そして――「運動の秋」がやってくる。

 次回、エデン大運動会開催!?

 魔法禁止! 肉体言語のみのガチンコ勝負に、あの「最強の騎士」が本気を出す!

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