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魔法の解像度を上げたら、世界が快適になりすぎた  作者: 茗子


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第46話 跳ねるカレーうどんと古の予言

 激辛カレーで湿気を吹き飛ばした翌日の昼下がり。

 エデンの屋敷には、昨日とは違う、どこかホッとするような香りが漂っていた。

「……ん? 昨日のスパイシーな匂いとは違うな」

 リビングに入ってきたレオナルドが鼻をクンクンと動かす。

 キッチンでは、アルリックとカエデが並んで鍋を覗き込んでいた。

出汁だしの香りだ。……カツオと昆布の合わせ出汁」

 カエデが真剣な表情で、黄金色のスープを鍋に注ぎ込む。

 鍋の中には、昨日の残りのカレーが入っている。

 ドロリとしたルーが、出汁と混ざり合い、少しサラリとした質感に変わっていく。

 そこへ、醤油とみりんを少々。

「……よし。これで『和風』になった」

 アルリックが味見をして頷く。

 スパイシーな刺激が角を取り、奥深い旨味へと昇華されている。

「今日の昼は『カレーうどん』だ」

「うどん? なんだそれは?」

 レオナルドが尋ねると、アルリックは足元を指差した。

 そこには、清潔なスライムシートに包まれた白い生地が置かれている。

 それを、聖女エレノアとブランが、楽しそうに「フミフミ」と踏んでいた。

「……これが『うどん』だよ。小麦粉と塩水を練って、足で踏んでコシを出すんだ」

「ええっ!? 踏むのですか!?」

 エレノアが驚いて足を止めるが、アルリックはサムズアップした。

「もっと踏んで。……親のかたきだと思って」

「……殿下ルディウスの顔を思い浮かべればいいのですね。……エイッ! エイッ!」

 ドスッ! ドスッ!

 聖女の踏み込みが鋭くなった。

 ブランも真似して、リズミカルにジャンプして生地をねている。

        ***

 数十分後。

 茹で上がった太麺(極太・コシ最強)が、丼に盛られ、その上から熱々の「和風カレーつゆ」がたっぷりと注がれた。

 具材は、昨日の煮込み肉に加え、斜め切りにした長ネギと、油揚げ。

「……いただきます!」

 全員が箸を割る。

 ズルズルッ……!

「…………!!」

 レオナルドが目を見開いた。

「なんだこの弾力はァァァッ!!」

 麺が歯を押し返してくる。

 モチモチ、シコシコとした強烈なコシ。

 それが、トロリとしたカレースープをたっぷりと絡め取って口の中に入ってくる。

「……辛くない。……いや、辛いんだが、優しい!」

 出汁の旨味が、スパイスの角を包み込んでいる。

 昨日の「攻撃的なカレー」とは別物だ。

 これは「癒やしのカレー」だ。

「はふっ、はふっ……! 美味しいですわ! お蕎麦ともパスタとも違う、この喉越し……!」

 エレノアが夢中ですする。

 だがその時。

 ピチャッ。

「あっ……!」

 エレノアの純白の聖女服(のエプロン部分)に、茶色いシミが一つ。

「……カレーうどんの呪いですね」

 アルリックは苦笑して、予め用意していた「紙エプロン(もどき)」を渡した。

 白い服を着ている時に限って、汁は跳ねる。これは異世界でも変わらない物理法則だ。

「……ふぅ。食った食った」

「最後にご飯を入れて『カレー雑炊』にするのも乙だな」

 鍋の底まで綺麗に平らげた一行。

 満腹になった彼らは、食後の運動がてら、昨日発見した地下遺跡の「奥」へ行ってみることにした。

        ***

 地下スパイス農園の突き当たり。

 そこには、カエデとジンが見つけた、もう一つの重厚な石扉があった。

「……開けるぞ」

 レオナルドとゴーレム(昨日の残骸を修復して味方にした)が、力一杯扉を押し開ける。

 ゴゴゴゴゴ……!

 数千年分のほこりが舞い、冷たい空気が流れ出した。

 中は、祭壇のような広い空間だった。

 そして、その正面の壁一面に、巨大な『壁画』が描かれていた。

「……なんだ、これは」

 アルリックが魔法の灯りで照らす。

 そこに描かれていたのは、古代の人々の生活……ではなく、「食事」の風景だった。

 中央に描かれた人物。

 どう見ても、現代人と同じような服を着て、片手に『箸』を持ち、もう片手に『どんぶり』を持っている。

 そして、その丼から立ち上る湯気の中に、奇妙な文字が刻まれていた。

『――RAMEN――』

「……ラ、ーメン?」

 アルリックが読み上げる。

 その横には、さらに別の絵が。

 丸い生地の上に、赤いソースと黄色いチーズ、そして丸いペパロニが乗った円盤。

『――PIZZA――』

 さらに、パンに肉を挟んだもの。

『――BURGER――』

「こ、これは……!」

 国王オスワルドが震える声を出した。

「古代の……『神々の食事』か!?」

「いや、どう見てもジャンクフードです」

 アルリックは頭を抱えた。

 間違いない。

 この古代遺跡を作ったのは、自分と同じ「転生者」だ。

 しかも、かなりの食いしん坊だ。

 壁画の下には、古代語(日本語)でこう記されていた。

『我、この地に楽園を築かんとしたが、材料が足りず断念す。……いつか来る後継者よ。我が悲願を達成せよ。……特に「醤油」と「味噌」と「ソース」を頼む』

「……先輩がいたのか」

 アルリックは脱力した。

 数千年前、同じように「食」を求めてこの地を開拓し、そして調味料不足で挫折した先人がいたのだ。

「アルリック殿! ここを見ろ!」

 カエデが壁画の端を指差した。

 そこには、エデンの地図らしきものが描かれており、数箇所に光る印がついている。

『――幻の食材の在り処――』

・北の氷河:極上のカニ

・南の密林:黄金のバナナ

・東の火山:激辛の秘宝(攻略済み)

・西の深海:伝説の巨大マグロ

「……宝の地図だ」

 レオナルドがニヤリと笑った。

 だが、アルリックの目は、その「北の氷河」の横に小さく書き殴られた、ある『日本語のメモ』に釘付けになっていた。

『※注意。ここの湖はしょっぱいだけじゃない。「天然のソーダ(炭酸ナトリウム)」が湧いている。……これで打った麺は黄色く縮れて美味いぞ』

「……あ」

 アルリックは思わず声を漏らした。

 天然のソーダ湖。

 それはつまり――アルカリ性の塩水。

「……『かんすい』だ」

「カンスイ? なんだそれは?」

 カエデが不思議そうに首を傾げる。

 アルリックは壁画の「ラーメン」の絵を撫でながら、興奮気味に説明した。

「うどんとラーメンの違いは、スープだけじゃないんだ。……麺にこの『かんすい』を入れることで、あの独特の黄色い色と、プリプリとした弾力、そして香りが生まれる」

 ただの小麦粉団子ではない。

 中華麺特有の、あのコシと風味。

 それを再現するための「魔法の粉」が、北の大地にあると先輩は書き残していたのだ。

「なるほど。……つまり、その『北の湖』へ行けば、至高の麺料理が完成するわけか」

 カエデが納得したように頷く。

 麺はある(うどんで代用可)。スープも作れる。

 足りないのは、ラーメンの魂とも言える「かんすい」と、具材の王様「チャーシュー」だ。

「よし。……次は『北』だ」

 壁画の地図とメモが示す、北の氷河エリア。

 そこには「極上のカニ」と、ラーメン作りに欠かせない「天然かんすい」があるはずだ。

 梅雨が明ければ、夏が来る。

 エデン一行は、避暑も兼ねて、北の大地へと遠征に向かうことになった。

 目指すは、至高の一杯。そして、カニ食べ放題。

 次回、雪と氷の世界で、熱々の「味噌ラーメン」と「カニ鍋」が待っている!?

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