表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の解像度を上げたら、世界が快適になりすぎた  作者: 茗子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/110

第40話 満開の桜と東の女侍

 エデンに、遅い春がやってきた。

 雪解け水が小川となって流れ、荒野だった大地からは、エルフたちが植えた草花が芽吹き始めている。

「……春だね」

 アルリックは、縁側でぽかぽかとした陽気を浴びていた。

 隣には、相変わらずコタツ(布団は外したが)の魔力から抜け出せない国王オスワルド3世と、膝の上で丸くなるブランがいる。

「うむ。良い陽気じゃ。……しかし、何かが足りんのう」

 国王が茶をすすりながら呟いた。

「酒はある。さかなもある。だが、こう……『風流』な景色が欲しいところじゃ」

「そうですね。……春には、やっぱり『桜』がないと」

 アルリックは立ち上がった。

 前世の記憶にある、淡いピンク色のトンネル。

 散り際こそが美しい、あのはかない花。

「……作りましょうか。お花見会場を」

        ***

 エデンのメインストリート。

 その両脇に、アルリックは苗木を植えていった。

 エルフのフィオナが見つけてきた『春告げの木(桜に似たバラ科の植物)』だ。

「――開花ブルーム。……満開の時を刻め」

 アルリックの魔力が、春の暖かな風に乗って苗木に染み渡る。

 ボッ、ボッ、ボッ……!

 次々とつぼみが膨らみ、弾けるように花開いていく。

 あっという間に、エデンの通りは薄紅色のアーチで覆われた。

 風が吹くと、花びらが雪のように舞い散る。

「おおぉ……! これは見事じゃ!」

「綺麗ですわ……! まるでピンク色の雲の下にいるみたい!」

 国王とエレノア、そして住民たちが歓声を上げて集まってくる。

 これぞ、日本のDNAが求める春の絶景。

「花より団子、とは言うけどね。……準備はいい?」

 アルリックが用意したのは、花見には欠かせない『三色団子』と『桜餅』だ。

 ピンク、白、緑の可愛らしい団子。

 そして、塩漬けにした桜の葉で包んだ、餡子あんこ入りの餅。

 この「餡子」を作るための小豆あずきは、以前から栽培を試みていたものがようやく収穫できたのだ。

「さあ、うたげの始まりだ!」

 ござを敷き、酒を酌み交わし、団子を頬張る。

 エデンは一気に祝祭の空気に包まれた。

 だが。

 その楽しい宴の席に、鋭い殺気をまとった一人の旅人が現れた。

 ジャリ……ジャリ……。

 草鞋わらじを踏みしめる音。

 現れたのは、黒髪をポニーテールに結い、着流しに二本の刀を差した、凛とした女性だった。

 東洋の顔立ち。

 その瞳は、獲物を狙う鷹のように鋭い。

「……見つけたぞ」

 彼女は、桜並木の下で団子を食べているアルリックたちの前で足を止めた。

 そして、腰の刀に手をかけることなく、静かに問うた。

「ここが『エデン』か。……そして、其方そなたが噂の主、アルリックだな?」

「そうだけど……君は?」

 アルリックが団子ピンクを咥えたまま答える。

 女性は一礼した。

拙者せっしゃは、遥か東の島国『ヤオヨロズ』より参った。名はカエデと申す」

「ヤオヨロズ? 東の国から?」

 ザワつく周囲をよそに、カエデはアルリックを睨みつけた。

「単刀直入に聞く。……貴様、我が国の『神』を盗んだな?」

「はい?」

 アルリックは首を傾げた。

 身に覚えがない。

「とぼけるな! 我が国では、ここ数年、不作が続いておる。……聞けば、この西の果てに『稲作』を成功させ、極上の『米』を作り出している者がいると!」

 カエデは一歩踏み出した。

「米は、我が国の魂! それを異国の地で、しかもこれほどの品質で育てるとは……貴様、我が国の『稲荷いなり神』を誘拐し、ここに幽閉しているに違いない! 神を返してもらおう!」

「い、いやいや。誘拐なんてしてないよ。……ただの品種改良と土壌改革で……」

「問答無用! ……その嘘、拙者の剣で切り伏せる!」

 カエデが刀を抜きかけた、その時。

「キュ?」

 団子の甘い匂いに釣られて、ブラン(白い魔獣)がカエデの足元にひょっこりと顔を出した。

 口の周りには、餡子がべっとりとついている。

「…………ッ!!」

 カエデの動きが凍りついた。

 彼女はブランを凝視し、そして震える声で叫んだ。

「お、おキツネ様ァァァッ!?」

「え?」

「白い毛並み! 神々しいオーラ! そしてその愛らしいお姿! ……間違いありませぬ、貴方様こそ、行方不明になっていた稲荷神の使い……いや、ご本体であらせられますか!?」

 カエデはその場に土下座ドゲザした。

 見事な平伏だ。

「ははぁーッ! こんな所におられたとは! しかも、口に『小豆(魔除けの象徴)』をつけて……!」

「キュウ!」

 ブランはよく分からないが、とりあえず褒められていると感じて、カエデの頭に前足をポンと置いた。

「ああっ! おキツネ様からの加護(肉球スタンプ)がッ!」

 カエデは感涙にむせび泣いている。

 完全に誤解だ。ブランはイタチ(オコジョ)だ。キツネではない。

 だが、東の国の文化では、白い獣は神聖視される傾向があるらしい。

「……あの、カエデさん? とりあえず、座って団子でもどう?」

 アルリックが皿を差し出すと、カエデは顔を上げた。

 厳格な武人の顔が、団子の前で少し緩む。

「……い、いや、拙者は任務中……。し、しかし、おキツネ様が食しておられる供物を、無下にするわけには……」

 彼女は葛藤の末、三色団子を一本手に取った。

 パクッ。

「…………!」

 もっちりとした食感。

 広がる米の甘み。

 そして、中の餡子の上品な甘さ。

「……う、美味い……!」

 カエデの瞳孔が開いた。

「我が国の団子より……柔らかく、洗練されている……! これが、エデンの米の力なのか……!?」

「桜餅もあるよ。……葉っぱごと食べてね」

 次に桜餅。

 塩漬けの葉の塩気が、餡子の甘さを引き立てる「甘じょっぱい」ハーモニー。

「こ、これは……桜の香りを食べるというのか……! なんと風流な……!」

 カエデは陥落した。

 彼女は団子を頬張りながら、ブランを崇めるように撫で回し始めた。

「……認めよう、アルリック殿。貴様は神を盗んだのではない。……神に愛されるほどの『飯』を作る男なのだな」

「まあ、そんなところかな」

 こうして、東の国からの刺客(?)カエデもまた、エデンの食文化とブランの可愛さに敗北し、仲間に加わることになった。

 彼女が持っていた「醤油」と「味噌」の醸造技術、そして「日本刀カタナ」の鍛治技術が、エデンに新たな革命をもたらすのは、もう少し先の話。

 桜吹雪の中、異世界のサムライガールは、口いっぱいに団子を詰め込みながら、幸せそうに花を眺めていた。

 エデンの春は、こうして賑やかに幕を開けたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ