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魔法の解像度を上げたら、世界が快適になりすぎた  作者: 茗子


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第37話 プリンの乱と王太子の誤算

 王都、王城の謁見えっけんの間。

 そこには、いつになく殺伐とした空気が流れていた。

「……殿下! どういうことですか! なぜ『エデン産』の物資を止めたのですか!」

 詰め寄っているのは、国の重鎮である公爵家の当主たちだ。

 彼らの目は血走り、手は震えている。

「我が家の妻と娘が、朝から晩まで『プリン、プリン』と泣き叫んでうるさいのです! あの黄色い宝石がないと、お茶会が開けないと!」

「そうだ! 我が家もだ! 孫が『野菜が苦くて食べられない』とハンストを起こしている! あの『白い魔法のソース(マヨネーズ)』を早くよこせ!」

 玉座の横に立つルディウス王太子は、額に青筋を立てていた。

「ええい、静まれ! たかが菓子と調味料ではないか! 貴様ら、誇り高き貴族のプライドはないのか!」

「プライドで野菜が食えるか!」

「甘味は心の栄養だ! それを奪うのは暴君の所業ぞ!」

 反論は止まない。

 エデンからの供給ストップは、王都の食文化に壊滅的な打撃を与えていた。

 一度知ってしまった「極上の味(QOL)」は、もう忘れられないのだ。

「……くっ。わかった、わかった!」

 ルディウスは舌打ちをした。

 このままでは支持基盤が崩壊する。

「あんなもの、所詮は卵と乳と油だろう? 我が国の優秀な『宮廷魔導師団』にかかれば、再現など容易いことだ! ……直ちに開発せよ!」

        ***

 数日後。

 王城の広間で、ルディウス主催の「新作発表会」が開かれた。

 集まった貴族たちの前には、銀の皿が並べられている。

「見るがいい! これが我が国が威信をかけて開発した『ロイヤル・プリン』だ!」

 ルディウスが胸を張る。

 だが、皿の上に乗っている物体は、どこか様子がおかしかった。

 表面がボコボコと穴だらけ(すが入っている)で、色はどす黒く焦げている。

「……さあ、食すがいい!」

 公爵がおそるおそるスプーンを入れた。

 硬い。

 まるでゴムのようだ。

 口に運ぶ。

 ――モグッ。

「…………」

 公爵の顔が、土気色に変色した。

「……硫黄いおう臭い」

「なっ!?」

「焦げた卵と、強烈なファイアボールの残り香がしますぞ! 食感はボソボソ、甘みはムラだらけ……こんなもの、プリンではない! ただの『甘い卵焼きの失敗作』だ!」

 宮廷魔導師たちは、火力の調整(温度管理)が大雑把すぎたのだ。

 繊細な蒸し料理であるプリンを、攻撃魔法の火力で作ろうとした結果、大惨事となっていた。

「で、ではこっちはどうだ! 『ロイヤル・マヨネーズ』!」

 次に運ばれてきたのは、ドロドロに分離した油と酢の混合液だった。

 乳化エマルションの技術がないため、ただ油っぽい酸っぱい液体になっている。

「……酸っぱい! 油っこい!」

「こんなものを野菜にかけたら、胸焼けして死んでしまう!」

 会場は阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図となった。

「ええい、黙れ黙れ! 貴様ら、王家への反逆か!」

 ルディウスが叫ぶが、もう遅い。

 貴族たちの心は、完全に離れていた。

 彼らの脳裏には、あの辺境で食べた「本物」の味だけが輝いている。

「……もう我慢ならん!」

「そうだ! エデンへ行こう!」

「あそこには温泉もあるらしいぞ!」

 その日を境に、王都から貴族や富裕層が次々と「失踪(エデンへ移住)」するという異常事態が発生し始めた。

        ***

 一方、そんな王都の混乱など知るよしもないエデン。

 アルリックは、寒くなり始めた気候に合わせて、新たな「冬支度」を進めていた。

「……ふぅ。寒くなってきたね」

 リビングの窓から、冷たい風が吹き込んでくる。

 だが、今のアルリックには無敵のアイテムがあった。

「……出られない」

「……出られませんわね」

「……動きたくねぇ」

 アルリック、エレノア、そしてレオナルドの三人が、四角いテーブルを囲んで動けなくなっていた。

 テーブルには布団が掛けられ、その下には温かい熱源(魔石ヒーター)がある。

 ――『炬燵こたつ』である。

 日本の冬の最終兵器。

 一度入ったら最後、人間をダメにする魔の結界。

「キュ〜……」

 中にはブランも潜り込んでおり、時折、誰かの足を枕にして幸せそうな寝息を立てている。

 テーブルの上には、カゴに入ったミカン(に似た柑橘)と、熱いお茶。

「……アルリック殿。王都から密偵キースの報告が届いたぞ」

 レオナルドが、コタツから出るのを拒否しながら手紙を読んだ。

「『王都パニック。プリンとマヨネーズを求めて暴動寸前。貴族たちが大挙してこちらへ向かっている』……だそうだ」

「へぇ。大変だね」

 アルリックはミカンの皮を剥きながら、他人事のように言った。

「でも、うちはもう満室だよ? これ以上増えたら、コタツが足りなくなる」

「……増築しましょう、アルリック様。わたくし、このコタツだけは誰にも渡しませんわ」

 エレノアが布団をギュッと握りしめる。

 聖女ですら堕落させるコタツの魔力。

 こうして、王太子ルディウスの嫌がらせは、結果として「エデンの価値」を爆上げし、さらなる移住者を呼び寄せる結果となった。

 エデンの冬は、外は寒いが、中は熱気とコタツでポカポカだった。

 次回、雪が降り積もるエデンに、あの「冬の鍋料理」が登場する。

 そして、ついに「王様」がお忍びでやってくる……!?

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