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魔法の解像度を上げたら、世界が快適になりすぎた  作者: 茗子


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第30話 王太子の嫉妬と極上のソフトクリーム

 王都の王城、その中庭で優雅なティーパーティーが開かれていた。

 主催者は、ルディウス王太子。

 招かれたのは、国の有力な貴族の子息や令嬢たちだ。

「……ふん。今日のスコーンはパサついているな」

 ルディウスは不機嫌そうに焼き菓子を放り投げた。

 口の中の水分を奪うだけの、硬い小麦の塊。

 紅茶はぬるく、香りが飛んでいる。

(……つまらん。何もかもが退屈だ)

 彼は苛立っていた。

 あの生意気な生活魔法使い――アルリックを追放して数ヶ月。

 せいぜい野垂れ死んでいるだろうと思っていたが、最近、奇妙な噂を耳にするようになったからだ。

「ねえ、ご存じ? 商業ギルドのカルロ様が持ち帰った『黄金の宝石』の話」

「ええ! あの『プリン』というお菓子でしょう? とろけるような食感で、一度食べたら忘れられないとか……」

「なんでも、辺境の『エデン』という場所でしか手に入らないそうですわ」

 貴族の令嬢たちが、扇子センスの陰でヒソヒソと盛り上がっている。

 その単語が、ルディウスの神経を逆撫でした。

「……おい。貴様ら」

 ルディウスが声をかけると、令嬢たちはビクリと震えて黙り込んだ。

「エデンだと? あの不毛の地にか? ……あそこには、追放された『穀潰ごくつぶし』がいるはずだが」

「あ、あの……殿下。ですが、そのプリンは本当に美味で……」

「黙れ!」

 ルディウスはテーブルを叩いた。

「たかが菓子だ! 軟弱な甘味ごときで騒ぐな! ……不愉快だ、今日の茶会は解散とする!」

 彼は一方的に席を立ち、執務室へと向かった。

 怒りが収まらない。

 自分が主催するパーティーの話題が、あろうことか「追放者の作った菓子」に奪われるなど、プライドが許さない。

「……近衛隊長!」

「はっ!」

「直ちに兵を率いてエデンへ向かえ。……そして、その『プリン』とやらを作っている工場を差し押さえろ。抵抗するなら反逆罪で処断しても構わん!」

「はっ! 直ちに!」

 ルディウスは歪んだ笑みを浮かべた。

(アルリックよ。……貴様が築いた小賢しい楽園など、私の権力で踏み潰してくれるわ)

        ***

 一方、その頃のエデン。

 アルリックは、新たな「QOL向上計画」に取り組んでいた。

 場所は、ドワーフたちが建てたばかりの『牧場エリア』。

 そこには、新鮮なミルクを出す牛型の魔獣『ミルクタウロス』が飼育されている。

「……暑い」

 荒野の日差しは強い。

 温泉もいいが、風呂上がりの体が再び汗ばんでしまうのが難点だ。

「冷たいものが食べたい。……プリンもいいけど、もっとこう、体を芯から冷やす『氷菓』が」

 アルリックの脳裏に浮かんだのは、日本の夏を彩るあの白い渦巻きだった。

 ――ソフトクリームである。

「よし、作ろう」

 材料は揃っている。

 ・濃厚なミルク(乳脂肪分4・0%以上)。

 ・生クリーム。

 ・砂糖。

 ・バニラエッセンス(エルフが森で見つけたバニラビーンズ)。

 問題は「撹拌かくはんしながら冷やす」という工程だが、彼には魔法がある。

「……レオナルド、ちょっとボウルを持ってて」

「おう! また何か美味いもんか?」

 レオナルドがボウルを抱える。中には材料が混ぜ合わされた液体ミックスが入っている。

 アルリックはボウルの外側に、もう一つ大きな氷のボウルを魔法で作り出した。

「――冷却フリーズ。……そして、撹拌ミックス

 ウィィィィン……。

 風魔法で中身を高速回転させる。

 空気をたっぷりと含ませながら、氷点下で急激に冷やしていく。

 カチカチに凍らせてはいけない。微細な氷の結晶と、空気の泡が混ざり合う、あの絶妙な「滑らかさ」こそが命だ。

「……よし。粘度テクスチャ、最適」

 数分後。

 ボウルの中には、純白のクリームが出来上がっていた。

 アルリックはそれを、厚紙を丸めて作ったコーン(ワッフル生地を焼いたもの)の上に、器用に渦巻き状に盛り付けた。

「完成。……特製『北海道風・濃厚バニラソフト』だ」

「……うおっ! なんだその変な形の食べ物は!?」

 レオナルドが目を丸くする。

 白いウン……いや、美しい螺旋らせんを描く塔だ。

「溶けないうちに食べて。……舐めるようにね」

 レオナルドはおそるおそる、白い先端をペロリと舐めた。

「…………ッ!!」

 瞬間、彼の体温が一度下がったような気がした。

「つ、冷めてぇええッ!! ……なのに、濃厚だ!!」

 口に入れた瞬間、冷たさが脳天を突き抜ける。

 その直後、体温で溶けたクリームから、爆発的なミルクの甘みが広がる。

 プリンのような卵のコクとは違う。純粋なミルクの暴力だ。

「牛乳を飲んでるみたいだ……いや、牛乳を100倍濃縮して、雪と一緒に食べてるみたいだ!」

 レオナルドは夢中でソフトクリームにかぶりついた。

 冷たさで頭がキーンとする(アイスクリーム頭痛)が、止まらない。

 荒野の暑さが、最高調味料スパイスになっている。

「……んぐっ、はふっ! 最高だ、これがあれば砂漠でも生きていける!」

 そこへ、匂いを嗅ぎつけたブラン(白い魔獣)も飛んできた。

 「キュウ!」と口を開けて待っている。

「はいはい、ブランの分も……って、あれ?」

 アルリックがソフトクリームを差し出そうとした時、彼の『索敵結界』が反応した。

 荒野の向こうから、土煙を上げて近づいてくる集団がいる。

 武装した騎士団だ。

 旗印は、王家の紋章。

「……おやおや。お客さんかな?」

 アルリックはソフトクリームを片手に、余裕の笑みを浮かべた。

 どうやら、王都からの「招かれざる客」が、この炎天下の中、わざわざ熱中症になりに来たらしい。

「レオナルド。……ソフトクリームを食べ終わったら、仕事だよ」

「おう! この美味いもんを邪魔する奴は、誰だろうとぶっ飛ばす!」

 騎士たちが直面するのは、最強の剣士と、キンキンに冷えたデザートによる「洗礼」だった。

 第30話にして、ついに王家との直接対決(?)が始まろうとしていた。

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