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魔法の解像度を上げたら、世界が快適になりすぎた  作者: 茗子


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25/120

第25話 森の賢者と銀の塩むすび

 開拓生活、一週間目。

 アルリックの家の前には、黄金色に輝く稲穂の海が広がっていた。

 魔法による超高速栽培のおかげで、通常なら半年かかる生育期間が、わずか数日に短縮されたのだ。

「……素晴らしい。これが、日本の原風景だ」

 アルリックは感慨深げに頷き、杖を振るった。

「――鎌風ウィンド・サイズ。刈り取り、開始」

 ザザザザッ!

 風の刃が稲の根元を撫でるように走り、瞬く間に収穫されていく。

 脱穀、精米まで全自動フルオート

 数分後には、麻袋いっぱいの「新米」が積み上がっていた。

「よし。今日の昼は『塩むすびパーティー』だ。……レオナルド、釜の準備を」

「おうよ! 待ってたぜ、この時を!」

 レオナルドが釜戸(即席で作った)に火を入れる。

 ブランも「キュウ!」と鳴いて、尻尾を振っている。

 だが、その平和な収穫祭に、水を差す者たちが現れた。

 ヒュンッ!

 風切り音と共に、アルリックの足元に一本の矢が突き刺さった。

「……何者だ! この不毛の大地を、怪しげな魔術で汚す者は!」

 凛とした声が響く。

 見上げれば、家の屋根や周囲の岩場に、十数人の影が立っていた。

 長い耳。緑の衣装。そして手には弓。

 森の守護者、エルフたちだ。

「……汚すとは失礼な。これは『緑化』だよ」

 アルリックは動じずに答えた。

 矢を警戒してレオナルドが大剣を抜くが、アルリックはそれを手で制する。

 エルフの集団の中から、一際美しい銀髪の女性が進み出た。

 族長の娘、フィオナだ。

「緑化だと? たった数日でこれほどの森(稲)を作るとは……自然の摂理に反している。貴様、黒魔術師か?」

 彼女は敵意剥き出しで弓を引き絞る。

 だが、その視線がアルリックの首元――そこに巻き付いている白い毛玉に向けられた瞬間、凍りついた。

「……なっ!?」

 フィオナの目が限界まで見開かれる。

「そ、そのお姿は……伝説の聖獣、カイザー・アーミン様!?」

「キュ?」

 ブランがアルリックの首から顔を出し、あくびをした。

 その神々しい(?)姿に、エルフたちが一斉にざわめく。

「馬鹿な……! 誇り高き聖獣様が、人間に……マフラーにされているだと!?」

「マフラーじゃない。パートナーだ」

 アルリックはブランの頭を撫でた。

 フィオナは混乱していた。

 聖獣は、清らかな魂を持つ者にしか心を許さないはず。それが、こんな怪しい黒髪の少年に懐いているなんて。

「……立ち話もなんだ。ちょうどご飯が炊けるところだ。食べていく?」

 アルリックは手招きした。

 家の中から、とてつもなく良い香りが漂ってきたからだ。

        ***

 数分後。

 エルフたちは警戒心を解かないまま、アルリックの家のリビングに通されていた。

 だが、その表情は驚愕に染まっている。

「な、なんだこの部屋は……! 涼しい! 空気が澄んでいる!」

「この椅子ソファ、雲のように柔らかいぞ……!」

 外は灼熱の荒野だが、室内は空調完備の24度。

 文明の利器(QOL)は、森の賢者たちにとっても未知の体験だった。

「さあ、どうぞ。……採れたての新米で作った『塩むすび』だよ」

 アルリックがテーブルに置いたのは、竹の皮(代わりの大きな葉)に乗せられた、真っ白な三角形のおにぎりだった。

 具はない。

 使ったのは、地下から汲み上げた清浄な水と、ミネラル豊富な岩塩のみ。

「……これが、食事か? ただの白い塊ではないか」

 フィオナは怪訝けげんそうに言った。

 エルフの主食は木の実や果物だ。穀物を調理して食べる習慣があまりない。

「騙されたと思って食べてみて。……噛めばわかる」

 フィオナはおそるおそる、おにぎりを手に取った。

 温かい。

 ずしりとした重みがある。

 彼女は小さな口を開け、一口齧かじった。

 ――モグッ。

「…………!!」

 フィオナの長い耳が、ピクリと跳ねた。

(あ、甘い……!)

 口の中に広がる、穀物の優しい甘み。

 塩気がその甘みを引き立て、噛むほどに旨味が溢れ出してくる。

 木の実のようなパサつきはない。モチモチとした食感が、官能的なまでに舌に絡みつく。

「な、なんなのですか、これは……! 果物よりも甘く、肉よりも満たされる……! これが『穀物』の力……!?」

 彼女は夢中でおにぎりを頬張った。

 一個、二個。止まらない。

 他のエルフたちも同様だ。

 「うまい!」「力が湧いてくる!」と叫びながら、用意した30個のおにぎりが瞬殺されていく。

「……ふう。満足していただけたかな?」

 アルリックがお茶(緑茶もどきのハーブティー)を出すと、フィオナは我に返り、顔を真っ赤にした。

 高潔なエルフが、食欲に負けてしまった。

「……くっ。認めよう。貴様の魔法と、この白い塊の力は本物だ」

 彼女は居住まいを正し、アルリックを真っ直ぐに見つめた。

「我々『風の民』は、森を失い、この荒野を彷徨さまよっていた。……だが、ここには水があり、豊かな土があり、そして聖獣様がいる」

 フィオナは深々と頭を下げた。

「頼む。……我々も、この地に住まわせてはもらえないだろうか? 労働力として、貴様の農作業を手伝おう」

「え、いいの?」

 アルリックは目を丸くした。

 エルフといえば、植物魔法のエキスパートだ。彼らが手伝ってくれるなら、野菜や果物の栽培が一気に加速する。

 トマト、キュウリ、ナス……夢の「夏野菜カレー」も夢じゃない。

「もちろん歓迎するよ。……ただし、条件がある」

「条件? やはり、生贄いけにえか……?」

 身構えるフィオナに、アルリックはニッコリと笑って言った。

「毎日、美味しいご飯をお腹いっぱい食べること。……それだけだ」

「……は?」

 フィオナは呆気にとられた。

 だが、その条件こそが、この少年が作る「楽園エデン」の法律なのだと知った時、彼女の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

 こうして、アルリックの開拓団に、

 ・最強の剣士レオナルド

 ・最強の魔獣ブラン

 に続き、

 ・最強の農家集団エルフ

 が加わった。

 衣食住が揃い、労働力も確保した。

 次なる目標は――「調味料マヨネーズ」と「娯楽(温泉街)」の開発である。

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