表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の解像度を上げたら、世界が快適になりすぎた  作者: 茗子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/110

第21章 荒野の即席マイホーム

 王都から馬車で揺られること、十日。

 アルリック・フォン・クロムウェルは、ついに追放先である辺境の地「エデン」に降り立った。

 目の前に広がっているのは、見渡す限りの荒野だ。

 乾いた風が吹き抜け、背の高い草がざわざわと波打っている。

 家はない。井戸もない。あるのは、遠くにそびえる山々と、時折聞こえる魔獣の遠吠えだけ。

「……酷ぇな、こりゃ」

 隣で馬から降りた赤髪の巨漢――レオナルドが、呆れたように呟いた。

 彼は「アルリックの飯が食えなくなるのは死活問題だ」という理由だけで、騎士団入団の誘いを蹴り、勝手に護衛としてついてきてしまったのだ。

「水場もねぇ、寝床もねぇ。……王都の連中、本気でお前を野垂れ死にさせる気だったんだな」

 レオナルドは腰の大剣に手をかけ、周囲を警戒した。

 普通の貴族なら、この絶望的な光景を見ただけで心が折れていただろう。

 だが。

 当のアルリックは、目をキラキラと輝かせていた。

「……素晴らしい」

「あ?」

「見てくれ、レオナルド。……邪魔な建物が一つもない。都市計画法も、建築基準法もない。近隣住民からの『騒音クレーム』も『日照権』の訴訟もない!」

 アルリックは両手を広げ、荒野の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

「ここは『真っ白なキャンバス』だ。……僕が、最初から完璧なインフラを敷設できるんだ!」

 彼の脳内では、すでに更地さらちの上に、理想の都市図面ブループリントが展開されていた。

 まずは、拠点となる「我が家」の建設だ。

 テント生活? 論外だ。

 QOL(生活の質)の基本は、雨風をしのぎ、防音・断熱が完備された「家」にあってこそだ。

「……レオナルド。少し離れていてくれ」

 アルリックは適当な平地に立ち、地面に杖を突き立てた。

(解像度を上げろ。……イメージするのは、鉄筋コンクリート造(RC)の平屋建て。高気密・高断熱の『パッシブハウス』だ)

 彼の魔力が大地に浸透していく。

 土魔法と、物質硬化の複合術式。

「――造成クリエイト。基礎工事、短縮」

 ゴゴゴゴゴ……!

 地響きと共に、地面が隆起し始めた。

 ただ土が盛り上がるのではない。

 魔力によって石材成分だけが抽出・圧縮され、継ぎ目のない一枚岩の「ベタ基礎」が形成されていく。

「うおっ!? じ、地面が……!」

 レオナルドが仰天する前で、さらに壁が競り上がってくる。

 コンクリート打ちっぱなしのような、無機質だが堅牢けんろうな壁面。

 その内部には、断熱材代わりの『真空層』がサンドイッチされている。

「――屋根、展開。……窓ガラス、生成」

 砂に含まれるケイ素を熱し、瞬時に透明な板ガラスを作り出す。もちろん、結露を防ぐためのペアガラス(二重窓)仕様だ。

 ズドン!

 最後に重厚な玄関ドアがまり込み、ものの数分で、荒野に一軒の「モダンな邸宅」が出現した。

「……な、なんだこれ……城塞ようさいか?」

 レオナルドは口をあんぐりと開けていた。

 魔法で土壁を作るのは見たことがあるが、これほど精緻で、かつ美しい建物は見たことがない。

「よし、外側ハコはできた。……次はライフラインだ」

 アルリックは満足げに頷き、家の中へと入っていく。

 内装はまだスケルトン状態だが、彼には優先すべき設備があった。

 ――水回りである。

(井戸を掘る必要はない。……地下水脈から直接、パイプで汲み上げる)

 彼は床下に手をかざし、地下50メートルにある清浄な水脈を探り当てた。

 土魔法でパイプを形成し、そこへ水魔法のポンプを接続。

「……給水システム、オンライン」

 蛇口(これも即席で作った)をひねると、ジャーッ! と勢いよく水がほとばしった。

「水が出た!? 魔法陣もなしに!?」

「そして、これだ」

 アルリックが隣の小部屋を指差した。

 そこには、白くなめらかな陶器のような便器が鎮座していた。

 水洗トイレ。

 文化的な生活の象徴。

「汚物は水流で押し流し、地下の『浄化槽(スライム培養タンク)』へ送る。……これで臭いともおさらばだ」

 さらに、浴室には広々としたバスタブを設置。

 給湯器(魔導ボイラー)も完備し、蛇口をひねればいつでも42度のお湯が出る。

「……レオナルド。今日からここが僕たちの拠点だ」

 アルリックは、完成したばかりのリビングのソファ(風魔法で膨らませたエア・クッション)に深く腰掛けた。

 窓の外には、夕日に染まる荒野が見える。

 だが、室内は完全空調で快適そのものだ。

「……マジかよ。王都の寮より快適じゃねえか」

 レオナルドはおそるおそる、ふかふかのソファに座った。

 追放されたはずなのに、なぜか王族のような暮らしが始まっている。

「さて、と」

 アルリックは空間収納マジックバッグから、あの『スチーム・オーブン』を取り出した。

「引っ越し祝いだ。……ピザでも焼こうか」

「!!」

 レオナルドの目が輝いた。

 辺境の荒野。

 魔獣が跋扈ばっこする危険地帯。

 だが、そこにある一軒家からは、とろけるチーズとトマトソースの、平和すぎる香りが漂い始めていた。

 王都が「あいつ、今頃泣いてるだろうな」と噂している頃、アルリックは熱々のピザを頬張りながら、次なる計画(温泉掘削)を練っていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ