表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧宙の星のレムリア -The First Story That Vanished-  作者: 久遠 魂録


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/141

覚えていようとする側

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

哲人は、シャッターを切らなかった。


目の前にあるのは、ありふれた商店街。

昼下がりの光、開きっぱなしの店の扉、風に揺れるのぼり旗。


――何もおかしくない。


「……でも」


彼は、ファインダー越しに、もう一度同じ景色を見る。


違和感は、音もなくそこにあった。


「ここ、前より……狭くなってないか?」


独り言のように呟くと、通りすがりの老婦人が怪訝そうにこちらを見た。


「何かありました?」


「あ、いえ……」


哲人は慌てて首を振る。


「なんでもないです」


嘘ではない。

説明できない以上、“なんでもない”としか言えなかった。


だが、彼の中でははっきりしている。


――何かが、削られている。


哲人は、カメラを下ろし、手帳を取り出した。

日付、時刻、場所。

それから、短い一文。


『商店街。以前より距離感が曖昧。理由不明』


それだけを書き留める。


「……映らないなら、書く」


彼は、誰に聞かせるでもなく言った。


カメラは、“あるもの”しか写さない。

だが、言葉は、“あった気がするもの”も残せる。


「哲人」


背後から声がした。


振り返ると、憂が立っている。

人混みの中にいても、不思議とすぐ分かる。


「どう?」


「……分からないことが、分かった」


哲人は苦笑した。


「写真、全然ダメ。

でも、さ」


彼は、胸の辺りを指で叩く。


「ここが、ずっとザワザワしてる」


憂は、少し考えるように視線を落とした。


「それで、いい」


「いいの?」


「うん」


彼女は、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「全部分かるようになったら……

多分、間に合わない」


哲人は、ふと彼女の横顔を見る。


「憂は、分かってるんだろ?」


「……分かってることと、思い出してることは、違う」


その答えは、どこか遠回りだった。


だが哲人は、それ以上踏み込まなかった。


「なあ」


彼は、商店街の端を指差す。


「さっきまで、あそこに自販機あった気がするんだけど」


憂は、そちらを見る。


そこには、何もない。


「気のせい、かな」


哲人が言うと、憂は首を横に振った。


「気のせいじゃない」


「……だよな」


二人は、しばらくその場に立っていた。


誰も足を止めない。

誰も気づかない。


「……書いとくか」


哲人は、また手帳を開く。


『自販機があった気がする場所。現在なし。

誰も気にしていない』


ペンを止めたとき、

不思議と胸のざわめきが少しだけ静まった。


「記録すると、落ち着くんだな」


「うん」


憂は、ほっとしたように息をつく。


「それが、“残す”ってこと」


哲人は、空を見上げた。


雲一つない空。

変わらない青。


「……だったらさ」


彼は、決意を込めて言う。


「消える前に、全部は無理でも――

気づいた分だけは、残す」


それが、正しいかどうかは分からない。


だが。


“忘れられる側”ではなく、

“覚えていようとする側”に立つ。


それだけは、選べた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ