表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧宙の星のレムリア -The First Story That Vanished-  作者: 久遠 魂録


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/144

焚き火は静かに燃え続ける

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

焚き火は、小さかった。


星舟の外。

簡易的に設営された野営地の片隅で、炎は音もなく揺れている。


夜風は穏やかで、空には星が多い。

だが、その星の配置が、どこか落ち着かない。


「……変ね」


マリアは、膝を抱えたまま呟いた。


向かい側では、ルシアンが静かに薪を足している。

火は大きくならない。ただ、一定の大きさを保ち続ける。


「何がだ?」


「この焚き火」


マリアは炎を見つめた。


「熱はあるのに、記憶に残らない感じがする」


ルシアンは手を止めた。


「記憶?」


「ええ。

普通、焚き火って、あとで思い出すでしょう。

匂いとか、音とか、誰が何を言ったか」


彼女は小さく息を吐く。


「でもこれは……

“今”しか存在していない気がする」


「それは……」


ルシアンは、少し考えてから言った。


「境界に近いからだろう」


「やっぱり」


マリアは頷いた。


「ここは、完全に現実でもない。

でも、異界とも言い切れない」


炎が、ぱちりと音を立てた。


その瞬間、マリアの脳裏に、何かが浮かびかける。


――誰かが、ここにいた。


「……」


彼女は、思わず目を伏せた。


「どうした?」


「いいえ」


マリアは首を振る。


「思い出しかけた、気がしただけ」


「誰の?」


「分からない」


それが、何より奇妙だった。


人の顔でも、声でもない。

ただ、“いた”という感覚だけが、胸に残る。


「でも、不安じゃない」


マリアは、そう付け足した。


「むしろ……安心する」


「安心?」


「ええ」


彼女は、焚き火に手をかざす。


「ここで、誰かと話した気がする。

内容は分からないけど……

悪い話じゃなかった」


ルシアンは、炎を見つめたまま言う。


「それで十分だ」


「え?」


「覚えていなくても、

“悪くなかった”という感情だけ残るなら」


彼は静かに続けた。


「それは、失われた記憶じゃない。

役目を終えた記憶だ」


マリアは、少しだけ目を見開いた。


「……あなた、たまに鋭いこと言うわね」


「たまに、な」


ルシアンは、わずかに笑った。


そのとき、風が吹き、焚き火が揺れた。


炎の向こう側に、一瞬だけ――

誰かの影が、座っているように見えた。


マリアは、目を凝らす。


だが次の瞬間には、もう何もいない。


「……」


「見えたか?」


「いいえ」


マリアは、首を振った。


「何も」


それは、嘘ではなかった。

だが、真実でもない。


焚き火は、静かに燃え続ける。


誰も語らない。

誰も確かめない。


それでも、その夜の温度だけは、

確かにそこにあった。


後になって、思い出せなくなるとしても。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ