揺れる人…
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
異変は、劇的な形では現れなかった。
ニュースになるほどでもなく、誰かが声を上げるほどでもない。だが、確実に「いつもと違う何か」が、世界のあちこちに滲み出し始めていた。
星舟ノア・レムリアのブリッジでは、ルーナが首を傾げていた。
「通信ログに、妙な空白がある」
「空白?」
マリアが近づく。
「受信はしてる。でも、解析できないわけじゃない。……ただ、“意味”が抜け落ちてる」
表示された波形は正常だ。ノイズもない。
それなのに、そこに何が含まれていたのか、判断できない。
「教団の妨害?」
「違う気がする」
マリアは画面を閉じた。
「これは遮断じゃない。世界側が“選ばなかった情報”を、勝手に落としてる」
ルシアンは黙って聞いていたが、やがて低く言った。
「揺らされているな」
一方その頃、地上では——
佐賀市内の小さな交差点で、信号が一瞬だけ止まった。
赤でも青でもない、どちらとも取れない光が点灯し、すぐに元に戻る。
通行人は誰も気づかない。
気づいたとしても、見間違いだと思っただろう。
学校では、授業中に黒板の文字が一行だけ消えた。
消えた内容を覚えている生徒はいない。
それでも、胸の奥に残る「言いかけた感じ」だけが、薄く残った。
——一方、地下。
ナイは装置の前に立ち、部下たちの報告を聞いていた。
「座標、分散完了。世界各地で小規模な揺れを確認」
「いい」
彼は満足そうに頷く。
「人は異変を恐れるが、“説明できない違和感”には慣れてしまう。その慣れこそが、こちらの足場になる」
「星舟の反応は?」
「まだ直接は」
ナイは微笑んだ。
「それでいい。彼らが気づくのは、選択肢が減った後だ」
再び星舟。
哲人はブリッジの後方で、何度目か分からない視線を窓の外に向けていた。
星空は変わらない。だが、どこか落ち着かない。
「……最近、変な感じがしませんか」
誰にともなく口にした言葉に、タケルが反応する。
「分かる。なんつーか、説明できない違和感」
「昨日と今日の間に、何か抜けた感じ」
哲人はその表現に、妙な納得を覚えた。
憂は静かに二人の会話を聞いていたが、やがて小さく言った。
「……揺れているのは、場所じゃない」
哲人は思わず彼女を見る。
「人の側」
その一言で、全てが繋がった気がした。
ルシアンが決断する。
「進路を再設定する。歪みが集中する前に、“揺れの流れ”を押さえる」
「追うんですか?」
「追わない」
彼は首を振った。
「流れを読む。敵の意図は、こちらを走らせることじゃない。立ち止まらせることだ」
星舟は静かに進路を変え、複数の歪みを一つずつ避けるように航行を再開した。
世界はまだ、壊れていない。
だが、確実に「選択を迫る準備」が進んでいる。
誰もそれを宣言していないのに、
全員が同じ感覚を共有していた。
——このままでは、いずれ何かを選ばされる。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




