叶わない願いは人を深く祈らせる
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
静かな失敗ほど、苛立つものはない。
地下深く。
場所も時刻も特定できない空間で、
無貌教団の中枢会合は行われていた。
円形の広間。
壁も天井も、素材は判別できない。
ただ、音だけが、やけに明瞭に響く。
「――失敗、という認識で間違いないな?」
低い声が、空間に落ちる。
発言者の姿は、曖昧だった。
輪郭が定まらず、
視線を合わせようとすると、焦点がずれる。
「“発生”には至っていません」
別の声が応じる。
こちらも同様に、顔が思い出せない。
「信仰の集積は確認しましたが、
臨界点の直前で霧散しました」
「原因は?」
一瞬の沈黙。
「……介入です」
その言葉に、空間の空気がわずかに軋む。
「星舟側か?」
「断定はできません。
ただ、“否定”ではなく、“無化”が行われています」
低い声が、ゆっくりと反芻する。
「無化……
なるほど。
信仰を否定せず、成立させなかった、というわけか」
苛立ちは、なかった。
むしろ、興味に近い感情が混じっている。
「彼らは、まだ理解していない」
別の構成員が、淡々と続ける。
「我々が作ろうとしているのは、
“信仰の結果”ではない」
「“信仰そのもの”だ」
低い声が、満足そうに言う。
「一度の失敗で、潮目が変わることはない。
むしろ、あの手法は――」
「気づかせる」
そう言って、誰かが小さく笑った。
「“何も起きない”ことを体験した者は、
次に“何か起きる場所”を、
より強く求めるようになる」
沈黙が、肯定として広がる。
「次の地点は?」
「既に準備済みです」
声の主が、淡々と報告する。
「条件は三つ。
孤立性、記憶の断絶、
そして――」
一瞬、言葉が途切れる。
「“個人的な願い”です」
低い声が、ゆっくりと頷く。
「群衆ではない、個。
不特定多数ではなく、
たった一人の“強度の高い祈り”」
「それが、最も歪みやすい」
広間の中央に、淡い光が灯る。
そこに映し出されたのは、
どこにでもある街角の映像だった。
だが、その片隅に――
古びた、小さな構造物が映る。
「……神社?」
「正確には、“祠”です」
誰かが訂正する。
「由来不明。
記録なし。
信仰の系譜も断絶しています」
低い声が、わずかに声色を変えた。
「いい。
実に、いい」
「“空白”は、
どんな意味でも注ぎ込める」
構成員たちの輪郭が、
わずかに揺らいだ。
「ただし」
声が、冷たくなる。
「次は、観測を強化しろ。
星舟側――特に、あの男だ」
「哲人、ですね」
「そうだ」
低い声は、確信を帯びていた。
「彼は、気づいていない。
だが、
彼自身が“媒体”になり得ることを」
広間の光が、ゆっくりと消える。
最後に残ったのは、
誰のものとも知れない一言だった。
「願いは、
叶うから危険なのではない」
「叶わなかったとき、
人は、より深く祈る」
暗闇が、すべてを覆った。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




