静かな介入の終わり
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
最初に動いたのは、世界の片隅だった。
南米の山中、観光地図にも載らない遺跡群。
かつては「奇妙な音が聞こえる場所」として、都市伝説好きの間で囁かれていたが、今は誰も近づかない。
そこに、少人数の調査班が入っていた。
「……何も、起きてないな」
通信越しに、現地協力者の声が届く。
「儀式跡はあるが、活動は停止している。
信者らしき人物も見当たらない」
マリアはその報告を聞きながら、静かに頷いた。
「想定通りです。
“見せるための痕跡”だけを残して、引いています」
「嫌なやり方だ」
ルシアンが低く呟く。
同時刻、東欧の小都市。
廃教会の前には、すでに警察と自治体が入り、封鎖線が張られていた。
だが、混乱はない。
むしろ、妙に静かだった。
「住民への聞き取りを終えました」
別の回線が割り込む。
「全員が同じ夢を見たと言っています。
ただし……内容は曖昧で、細部が一致しません」
「恐怖の方向性だけ、揃えている」
マリアの分析は即座だった。
「具体像を持たせないことで、
“自分で想像させる余地”を残しています」
哲人は、ブリッジの隅でそのやり取りを聞きながら、落ち着かない気分になっていた。
戦っている。
確かに、動いている。
だが、敵の姿は見えない。
手応えもない。
「……追いかけても、捕まらないですね」
「追わせるのが目的だからな」
ルシアンは短く答えた。
「こちらの注意と資源を、広く薄く使わせる。
その間に、別のことを進めている」
「別のこと、って?」
哲人の問いに、ルシアンはすぐには答えなかった。
代わりに、マリアが新しい情報を投影する。
「アジア沿岸部。
存在しない島影の報告が、急激に減っています」
「消えた?」
「ええ。
――“確認された”後で、です」
ブリッジに、短い沈黙が落ちる。
「……つまり」
哲人が言葉を探す。
「見せるものは見せ終わった、ってことですか」
「その可能性が高いですね」
マリアは淡々としているが、その声には緊張が滲んでいた。
「彼らは、こちらの反応速度と判断基準を、すでに把握したと考えられます」
星舟ノア・レムリアは、まだ動かない。
だが、動かない“選択”そのものが、敵に情報を与えている。
憂は、ブリッジ中央から一歩離れた場所で、静かに立っていた。
「……近づいています」
誰に言うでもなく、彼女が呟く。
「何が、だ?」
ルシアンが問う。
「“使うべき時”が」
その言葉に、哲人は思わず彼女を見る。
憂の表情は落ち着いていた。
だが、そこには微かな覚悟の色があった。
「まだだ」
ルシアンは即座に否定しなかったが、釘を刺す。
「今はまだ、向こうの狙いがはっきりしない」
「……分かっています」
憂は小さく頷く。
「だから、怖いんです」
その一言が、場の空気を引き締めた。
各地の異常は、次々と沈静化していく。
だが、それは解決ではない。
“確認された”という事実だけが、世界に残されている。
無貌教団は、確実に次の段階へ進んでいた。
そしてこちらもまた、
見えないカウントダウンの中に立たされている。
静かな介入は終わった。
次は、より明確な衝突が――避けられない。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




