財団は、敵ではない
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
星舟のある地下空間を離れたあと、僕たちは一言も交わさず、夜の吉野ヶ里を歩いていた。
さっきまで感じていた圧迫感は薄れたはずなのに、胸の奥に重たい何かが残っている。
ナイという存在が、「去った」のではなく、「見続けている」――そんな感覚が、どうしても拭えなかった。
「……なあ」
沈黙を破ったのは、レオだった。
「お前ら、俺たちのこと、どう思ってる?」
唐突な問いに、僕は言葉を詰まらせる。
「どう、って……」
正直に言えば、分からない。
敵に見える時もあれば、味方のようにも思える。けれど、完全に信じきれるわけでもない。
その曖昧な気持ちを察したのか、レオは苦笑した。
「まあ、そうだよな」
「無理もない」
マックスが続ける。
「シャーロット財団は、世間的には“善意の研究機関”だ。だが、我々が扱っているのは、人類が触れるには早すぎる代物ばかりだ」
彼は立ち止まり、振り返った。
「君たちは、星舟を見た。レムリアの遺産が、今も生きていることを知ってしまった」
その視線が、僕と憂を交互に捉える。
「だから、これ以上“何も知らない存在”ではいられない」
胸が、静かに鳴った。
「……監視対象、ってことですか」
僕の問いに、マックスは否定も肯定もしなかった。
「協力者、と言い換えてもいい」
「選択肢は?」
「ほぼ、ない」
レオが即答する。
「だが安心しろ。少なくとも、俺たちは“君たちを利用して世界を壊す側”じゃない」
その言葉に、憂が顔を上げた。
「……じゃあ、あなたたちは、誰と戦ってるの?」
マックスは、一瞬だけ目を伏せた。
「“神話”だ」
その一言で、すべてが繋がる。
「正確には――神話を利用して、現実を書き換えようとする者たち」
ナイ。
蕃神。旧支配者。
人の姿を借りた、宇宙神の残滓。
「財団は、神話を否定しない」
マックスは静かに続ける。
「だが、神話が人類を支配する未来は、絶対に許さない」
レオが、地面を軽く蹴った。
「だから、俺たちは“悪役”に見える役を引き受けてる」
その言葉が、妙に胸に残った。
悪役に見える役。
――ふと、そんな存在が脳裏をよぎる。
「理事長は、全部分かってるんですか」
僕が尋ねると、二人は同時に笑った。
「分かってて、黙ってる」
「分かってないことも、分かってる」
どちらがどちらを言ったのか、分からない。
その時、憂が小さく呟いた。
「……それでも、あなたたちは、私を守る?」
マックスは即答した。
「守る」
レオも頷く。
「理事長の命令以前に、人としてな」
憂の表情が、ほんの少しだけ緩んだ。
その様子を見て、胸の奥に溜まっていた緊張が、ゆっくりと解けていく。
――敵じゃない。
でも、味方とも言い切れない。
それでも、同じ方向を見ている。
「星舟は、どうなるんですか」
僕が問いかける。
「まだ、動かさない」
マックスは断言した。
「起動すれば、必ずナイが動く。今は、“眠らせたまま守る”方がいい」
レオが肩をすくめる。
「そのための財団だ」
夜風が、遺跡を吹き抜ける。
その風の中で、僕は確信していた。
シャーロット財団は、敵ではない。
けれど――味方でいるには、あまりにも多くの秘密を抱えている。
そして、憂の胸元で、レムリアが静かに光を宿していた。
まるで、来るべき目覚めの時を、じっと待っているかのように。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




