敵として振る舞う理由
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
翌朝、ニュースは静かに騒いでいた。
画面に映し出されているのは、吉野ヶ里遺跡周辺に展開するシャーロット財団の車両と、人員の姿だった。
「文化財保護の名目を逸脱している」「調査権限を超えている」――そんな言葉が、淡々と並べられていく。
「……完全に悪者扱いだね」
僕はリモコンを置き、ため息をついた。
憂はソファに腰掛け、膝の上で両手を握りしめている。
その表情は、昨日の戦闘よりも重かった。
「私のせい、だよね」
小さな声。
「財団があんなふうに言われるのも、追われるのも……」
「違う」
即座に否定した。
考えるより先に、言葉が出た。
「憂のせいじゃない」
根拠はない。
それでも、そう言い切りたかった。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
立っていたのは、シャーロットだった。
普段のスーツ姿ではなく、黒いコートを羽織っている。
「入っても?」
短い言葉。
拒む理由なんて、あるはずがなかった。
リビングに入るなり、彼女は本題に入った。
「今日から、私たちはあなたたちの“敵”になります」
あまりにも淡々とした宣告だった。
「え……?」
憂が言葉を失う。
「正確には、“そう見えるように振る舞う”」
シャーロットはテーブルに資料を広げた。
そこには、複数の組織名と、赤い線で結ばれた相関図が描かれている。
「ナイ側は、財団を“力を持つ人類組織”として認識しています。
ならば――」
彼女は視線を上げ、まっすぐ僕を見る。
「その役を、引き受けます」
わざと目立ち、わざと敵対し、
視線を集める。
「……囮、ですか」
レオの声が、通信越しに響いた。
『ええ。あなたたちを守るための』
通信の向こうで、マックスが不満げに唸る。
『嫌われ役ってのは、性に合わねぇな』
『だから、あなたが必要なのよ』
シャーロットは迷いなく言った。
憂は、俯いたまま黙っている。
その肩が、小さく震えているのが分かった。
「そんなの……」
憂が絞り出すように言う。
「私のために、みんなが……」
「違うわ」
シャーロットの声は、静かだが強かった。
「あなたは“原因”じゃない。“中心”なの」
その言葉は、慰めではなかった。
むしろ、逃げ道を塞ぐ宣告に近い。
「世界は、もう動き始めている。
止められるのは、誰かが“悪者”になることだけ」
沈黙が落ちる。
僕は拳を握りしめていた。
「……僕は、どうすればいい」
シャーロットは少しだけ、表情を和らげた。
「あなたは、そばにいて」
それだけだった。
それだけなのに、胸に重く響いた。
夜。
憂は眠れず、窓辺に立っていた。
カーテン越しの月明かりが、彼女の輪郭を淡く照らす。
「……もし、私がいなかったら」
独り言のような呟き。
その言葉を、レムリアは否定しない。
胸元で、宝石が微かに脈打つ。
まるで、“そうだ”と肯定するかのように。
その瞬間、憂は初めて思ってしまった。
自分は、世界にとって“正しい存在”なのだろうか。
答えは、まだ出ない。
ただ一つ確かなのは、
シャーロット財団は、今日から“敵”になった。
それが、守るための選択であったとしても。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




